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ベトナムを有機農法で変える  連携促す伊能まゆさん  舟越美夏 ジャーナリスト

2021.12.27

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ベトナムを有機農法で変える  連携促す伊能まゆさん  舟越美夏 ジャーナリストの写真

 一息つこうと思っていたら「オミクロン株」だ。ベトナムの友人たちは新型コロナのデルタ株の第4波の中におり、11月末時点で1日の感染者数は1万人超。かつてはコロナを抑え込み賞賛されたのに、なぜなのだろう。

 そんな中で、ベトナムから一時帰国した伊能まゆさん(写真:本人提供)に会った。伝統的な種の保存や地域の食文化を守り、有機農法をビジネスにつなげていく方法を広めるNGO「Seed to Table」を主宰している。中高生も巻き込んで住民とともに歩むこの活動は10年を超え、今やベトナム政府からの評価も高い。

 外国の団体を歓迎しない社会主義国ベトナムで農村に入り込む活動は、並大抵の根性ではできない。彼女のご先祖には実測による初の日本地図を作った伊能忠敬がいるが、目標に向かって粘り強く進む行動力は脈々と受け継がれているのかもしれない、とひとり頷いたりする。

 この1年は、ロックダウン(都市封鎖)で有機農作物を流通に乗せるのが難しかったという。「でもコロナだけでじゃないんです、農家の人たちを苦しめているのは」。気候変動や開発による水不足が今、農水産業に大きな打撃を与えているのだ。

 例えばマンゴーの不作。花をつける乾季に、激しい雨が降る。花は落ちて実がならない。ベトナム南部を流れるメコン川の上流では、中国やタイ、ラオスなど各国がダムを建設し、水位が下がって海水が逆流する。ココナツやコメも不作、魚の姿も見えなくなる。ダム建設には、世界銀行など国際機関も関与しているのだ。

 伊能さんはじっとしてはいない。来年には日本から、ユニークな取り組みで「地域づくり」に貢献する4人を招待し、農村や学校で講演してもらう準備を重ねている。登壇者はふるっている。

 「地元学」で知られる、熊本県の吉本哲郎氏。北海道白老町の地域おこし協力隊。「家で余り捨てられている野菜を売ろう」からスタートし大人気となった高知県四万十町の「十和おかみさん市」社長。コウノトリを守るため農家が始めて広がった、農薬に頼らないコメ作りの取り組みを支援する兵庫県豊岡市。

 「ベトナムの人たちに知ってほしいのは『行政の役割』と『地域の人たちの連携』なんです」と伊能さんは言う。農村では毎夜のように人々が集まっては酒を酌み交わし、伊能さんも村人たちと深夜まで語り明かす。だが村人たちは、農業では連携しない。冷戦時代の土地改革の失敗などの影響が背景にあるのではと伊能さんは推測している。

 「助け合ってみんなで豊かになり、未来に財産を残す」。かつて農村に自然に息づいていたこの考え方を、伊能さんは時間をかけてゆっくりと取り戻そうとしている。希望はある。伊能さんのプロジェクトに賛同し積極的に活動するのは、これからの社会を担う20代が中心だ。4人の講演は、彼らに大きな刺激を与えるに違いない。そして日本に住む私たちもいつか、その成果の恩恵を受けることになるはずだと、私は予感している。

 「次にやってほしいのは、農業学校の設立です」。11月末に訪日していたレー・ミン・ホアン農業農村開発大臣が、東京で伊能さんに語ったという。

(Kyodo Weekly・政経週報 2021年12月13日号掲載)

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