農業は成長戦略の草刈り場か 参院選へ議論を 小視曽四郎 農政ジャーナリスト
2021.12.20
10月末の総選挙後、知り合いの農業関係者の口ぶりは総じてさえない。「選挙が終わって政府や自民党はコメ問題はもう終わったような気でいる」「規制改革会議は改組といったのに何もなし。これじゃ票だけもらう、やるやる詐欺だ」などのボヤき節だ。
9年近い「安倍・菅」政権による、新自由主義の弊害からの転換だの、新しい資本主義だの、当初は弁舌さわやかだった岸田文雄首相。成長と分配の好循環や、気候変動などの地球規模の危機に備えるといった、美辞麗句に惑わされた悔しさも、うかがえる。
実際、成長といいつつ、農業はこの間、アベノミクスの成長戦略によって環太平洋連携協定(TPP)に始まる一連のメガ貿易協定や、コメの生産調整の民間主導移行、農業協同組合(JA)組織改革、種子法廃止など成長戦略の「草刈り場」的な分野として振り回されてきた。その割に分配はないどころか、「マイナスの分配だ」との不満が口をつく。
例えば一連のメガ協定の発効による農産物の関税下げに対し、輸出戦略による農業の活性化への効果はほど遠い。
「2030年の5兆円目標達成のためには国産農産物ではまかなえず、逆に原料調達のため一層の輸入農産物が必要になる」(作山巧・明治大教授)との見方もある。
コメでは、10月の相対取引価格は、全銘柄平均で前年比13%減の60㌔あたり1万3120円。17~19年産は1万5000円台で推移していたが、コロナ禍の影響もあり20年産から低落。今年産は在庫が少ない西日本は1~2割減、在庫の多い宮城など東北産の業務用などは前年より2~3割安く「稲作農家が心配」(業者筋)な事態だ。
シグナルが点滅
農業現場ではこの間、多くの危機を知らせるシグナルが点滅していた。農業就業者数が減少、田畑の農地価格は約30年一貫して下落している。後継者減少、高齢化、コメ価格の下落などが原因だが、農業の魅力がいかに減退しているかの証左だ。
総選挙で農政は全く争点にならなかった印象だが「安倍・菅」政権時代からの成長産業としての農業の扱いが問われていた。
気候変動対応が地球的課題として急浮上。「脱成長」さえ唱えられる今日、食料輸入に伴う膨大な二酸化炭素の排出や輸入食料の海外生産による水(仮想水)の大量依存などが許されるのか。当然、食料の自給率向上とそれに関連する本格的な対応が岸田政権には期待されるのではないか。
食と農をめぐる国民の論議はまだまだこれからだ。当面は来年夏の参院議員選挙に向け、食農論議の一段の活性化が不可欠だ。
(Kyodo Weekly・政経週報 2021年12月6日号掲載)
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