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味わい向上、「積極的飲用」が増加  伸びるノンアルコール飲料  幕田宏明 矢野経済研究所フードサイエンスユニット主任研究員

2021.12.16

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 近年成長が続いているノンアルコール飲料の勢いが、コロナ禍でさらに増している。以前は運転中や妊娠中といった、お酒を飲みたくても飲めない場合の"消極的な代替飲料"としての需要が主であったが、近年はメーカー各社が飲用シーンの拡大に注力を続けたこともあり、酒を飲める場面であっても「健康のために」「リフレッシュのために」とあえて選択する"積極的飲用"が増加している。(写真はイメージ)

 年々味わいが向上しているほか、チューハイ、カクテルテイストやワインなど、カテゴリーも多様化しており、酒が飲める、飲めないにかかわらずファン層が拡大している。アルコール分0.00%のビールについては、2020年10月の酒税改正で、価格優位性がさらに強まった点も追い風になった。

 中心となるノンアルコールビールでは、酒類の代替といった従来の需要のみならず、リフレッシュしたい時や健康を気遣う時、リラックス時、レジャーやスポーツ時といった、さまざまなシーンでの提案や、ユーザーニーズの多様化に対応した商品の発売が相次いでいる。

 コロナ下では飲食店での酒類提供が制限されたが、ビールの替わりにノンアルコールビールを求めるニーズも拡大した。また近年は「糖の吸収を穏やかにする」「内臓脂肪を減らす」といった健康機能性を訴求した商品が続々と登場し、ノンアルコールビール全体の約1割を占めるまでに拡大した。

 ビールテイスト以外でも好調な動きが目立つ。缶入りなどのRTD(レディー・ツー・ドリンク=開けてすぐ飲める)のノンアルコール飲料は、コロナ禍で高まった健康志向に加え、RTD市場全体が2桁台の伸びを続けていることもあり、RTDに慣れ親しんだユーザーの飲用機会の増加や定着によって伸長している。

 ワインも、乾杯用のスパークリングワインの代替として、婚礼や宴会における飲用がここ数年増えていた。コロナ禍でこれら業務用での動きが加速していることに加え、国産品、輸入品とも新たな提案が見られたことで、家庭用としても徐々に浸透してきている。

 ストロング系RTDと呼ばれる、アルコール度数9%前後の商品が人気であるように、これまでは短い在宅時間の間に早く効率よく酔いたいとの思いが強かったが、コロナ禍で読書やゲーム、家族とのだんらんの時間が取れるようになったことで、お酒感を感じながらもあえて酔わないとの選択をする人が増えた。外出自粛による在宅時間の増加から、運動不足や酒量の増加を気にする人が増えていることも、市場の成長につながっている。

 このような意識の変化や、高アルコール度数による健康被害懸念から、ビールメーカーが関連商品をより強化している。その流れの中でアルコール度数を1%未満に抑え、酒類法上酒類に分類されない「微アルコール」飲料が注目を集めている。

 アサヒビールが2021年3月にアルコール度数0.5%の「ビアリー」を発売。9月には同0.5%の「ハイボリー」を売り出し、サッポロビールも同0.7%の「ザ・ドラフティ」を発売した。若年層を中心に好評なことから、今後各社から微アルコール飲料が発売されると予想される。

 こういった動きに対応し、清涼飲料メーカーからも「おうち需要」を獲得すべく、ノンアルコールカクテルの提案を強化する動きが出てきている。清涼飲料メーカーの強炭酸水や大人向け炭酸といった、爽快で飲み応えのある商品が、コロナ禍以前より注目されていた。コカ・コーラシステムはノンアルコールカクテル「モクテル」のレシピをHP上で公開しており、アサヒ飲料も「ウィルキンソン」ブランドから、「"酔わない"を楽しむライフスタイル」をテーマに、ノンアルコールカクテルや炭酸飲料のレシピ提案を強化し、特設広告ページをAmazonのサイト内に置いている。

 海外では「sober」(しらふ)と「curious」(好奇心の強い)を組み合わせた造語である「ソバーキュリアス」と呼ばれる非飲酒、少量飲酒が、若年層を中心にトレンドとなり、日本でも新たな動きとして広がりつつある。

 海外の複数の酒類メーカーは、2025年までに低アルコール飲料やノンアルコール飲料の構成比率を20%とすることを目標として掲げている。アルコール規制の強化を見据えて、不適切な飲酒の防止を目的としている。こうした動きが世界的な潮流となりつつあり、日本でも都市部で専門のバーが登場している。今後もノンアルコール飲料の動きから目が離せない。

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