海の課題を料理に組み立て シェフと考える未来 佐々木ひろこ フードジャーナリスト(Chefs for the Blue代表)
2021.12.27
2017年の結成以来、さまざまな啓発活動を続けてきた私たちChefs for the Blue。活動内容を少しずつダイジェスト的にご紹介しているのだが、今回は2年前の秋に開催した「未来の海のレストラン」というイベントについて書いてみようと思う。
Tポイント・ジャパンとのコラボレーションにより実現したこの食事会は、フードマガジンやファッションメディアの編集者を対象として、少しとんがった内容に組み立てたイベントだった。目的は、「メディアに現状を伝え、ちょっと驚いていただこう」というもの。「A.現下の章」「B.絶望の章」「C.希望の章」という3部構成とし、それぞれ、A.日本の海の危機的状況、B.このまま変わらずにいた場合の将来図、C.海を正しく回復させた場合の明るい未来を、それぞれ数皿のコース仕立ての料理で表現した。
Aはたとえば、40㌢大のノドグロ魚拓調のテーブルマットに、10㌢大の干物をのせた皿。ノドグロは本来、雌の成魚は40㌢ほどになるのだが、現在市場にそんな大きさの魚はほとんど並ばない。少し前から大人気魚となったノドグロは、成長する前の段階で争うように漁獲されてしまうものがほとんどだからだ。小さなサイズしか見たことがなかったメディアの方々は、魚拓から本来のサイズを見て言葉を失っていた。(写真:ノドグロの魚拓に乗せた10㌢サイズの干物の皿=Tカード五島の魚プロジェクト提供)
Bはたとえばうな重。小さなお重のふたを開けると、タレがけご飯しか入っていない仕掛けにした。ニホンウナギは絶滅危惧種に指定されており、資源回復が喫緊の課題だ。養殖向け稚魚の漁獲量が歴史的低水準で推移するなか、このまま何の措置も取らなければ、未来のうな重にウナギが乗らない可能性もあるのではないか、という皮肉を込めた。
それに対してCは、水産エコ認証の魚や、まだ資源が潤沢に残っている魚、認知度が低かったり足が早い(傷みやすい)ために水揚げされても流通に乗らなかったりした魚などを使い、また骨や頭などを使ってだしを取るなど、可能な限りフードロスが出ないよう調理した数品を取り合わせて定食仕立てにし、"明るい未来の海"を取り戻すための料理として提供した。
海の問題を「見える化」し、それをシェフが料理に組み立て、私が解説するという、私たちならではのこのイベントは大成功をおさめた。将来いずれまた開催したいと思っている。
(Kyodo Weekly・政経週報 2021年12月13日号掲載)
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