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深刻さ増す食料対立  市民団体がサミットから離反  共同通信アグリラボ所長 石井勇人

2021.11.25

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深刻さ増す食料対立  市民団体がサミットから離反  共同通信アグリラボ所長 石井勇人の写真

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、食料の価格が上昇し、途上国などで飢餓が拡大する恐れが高まっている。しかし具体的な対応策で国際的な合意を形成するのは容易ではない。923~24日にオンラインで開かれた「国連世界食料システムサミット」は、ビア・カンペシーナ、市民社会メカニズム(CSM)など約500の市民団体が参加を拒否し、食料をめぐる対立が浮き彫りになった。

 国連のグテレス事務総長は昨年の世界食糧デー(10月16日)に、持続可能な開発目標(SDGs)の達成のために食料システムを議論する場としてサミットの開催を提唱した。幅広い関係者に参加を呼び掛け、各国の首脳だけではなく「ピープルズ・サミット」(人々のサミット)として開催する意向も示した。

 化学肥料や農薬を大量に使って増産する工業型の農業が持続可能ではないという批判が強まる中、サミットの開催は有意義だと思われる。それなのに、サミットをボイコットした市民団体は何に失望し、何を求めているのだろうか。

 彼らは、約20年前から世界貿易機関(WTO)体制を基盤とする多国籍企業による食料支配を批判してきた。ビジネス化した農業では、余った食料は不足している人々に届かず、カネがあるところに流れる。余剰穀物を高く売るために、家畜に食べさせて肉にし、エタノールにして自動車を走らせる。購買力がある国に輸出して飽食させ、食べ残しを捨てさせる。

 一方で途上国の農業は、コーヒー、砂糖、パーム油、バナナなどの単作(モノカルチャー)に切り替えられる。穀物の自給能力を失い、自然災害などで不作になれば飢餓が拡大する。市民団体は、現在の食料システムが抱える不条理を解消し、中小の家族農業や消費者が食べる物を選ぶ権利を重視し、生態系に配慮する農業への転換を期待していた。

 ところが、国連は多国籍企業の代表らで構成される世界経済フォーラム(WEF)やビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団と二人三脚でサミットの準備を進めた。科学技術、イノベーション、投資によって食料を増産し、貿易の自由化を促進することで飢餓を克服するという彼らの発想は、従来と少しも変わらない。

 市民団体側の失望は大きい。彼らは、サミットの真の狙いが新型コロナの感染拡大の影響で弱体化した農業ビジネスの延命であり、「持続可能な農業」ではなく「持続可能な多国籍農業ビジネス」だと見抜いたのだ。

 残念ながら日本では、サミットについてほとんど報道されていない。菅義偉首相がビデオメッセージで「みどりの食料システム戦略」を紹介したことが短く伝えられただけだ。サミットに対立が持ち込まれたのは残念だが、これを契機に、私たちの飽食と途上国の飢餓は「カネ」という見えない糸で直結しているという現在の食料システムについて、認識を深めたい。(共同通信アグリラボ所長 石井勇人)

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