深刻な後継ぎ不足 危機感ない岸田首相 小視曽四郎 農政ジャーナリスト
2021.11.08
4年ぶりの政権選択選挙。長い「自民党総裁選劇場」の後で新総裁・新首相にたどり着いたのは「聞く力」が得意の岸田文雄氏。第100代とは区切りはいいが、農業・農政との関わりは薄い。
しかも国民の生活や産業、政治の現実に対し、正面から「語る勇気」が感じられなかったという人も多いのではないか。岸田氏にしてみれば本音を話せば総裁になれるのもなれなくなる、との思惑は理解できなくもない。だが、そんな人物が首相になってどれだけの政治ができるのか。
さてその総裁選での食や農業・農村への言及だ。「完全に埋没していたのではないか」(全国紙農業担当記者)。所見発表や専門紙アンケートでは米政策や規制改革、生産基盤の強化などで一応のことを打ち出していた。しかし、農業・農村の現状への関心は浅く、ましてや危機感をどれほど持っていたか疑問だ。
確かに岸田、高市早苗両氏は食料自給率向上や食料安全保障に触れたが、ならば2020年度の食料自給率(カロリーベース)が37.17%の過去最低(8月25日発表)になり、家族経営農家が初めて100万(99万1400、2月1日現在)を割ったことに対する政策で深掘りの議論をするべきだった。
また9月発表の統計では農家の高齢化で20年農作物の延べ作付け面積が前年比2万8000㌶減り、399万1000㌶と初めて400万㌶を割った。
一方、20年の新規就農者は後継ぎのいない高齢農家が離農し、17年以降6万人割れの5万3740人(3・8%減)となっている。高齢就業者(65歳以上)は農業・林業が53%(106万人、20年総務省)と全産業で最も高い。
東京大の安藤光義教授は「農業の解体が進む」と懸念する。
では、なぜこんな現実があるのか。前回の総選挙からの4年間の規制緩和や貿易の自由化を柱とする農政の影響は無視できないだろう。
メガFTA(自由貿易協定)だけでも環太平洋連携協定(TPP11)、日欧経済連携協定(EPA)、日米貿易協定が18年から20年にかけ相次いで発効。地域的な包括的経済連携協定(RCEP)も今年4月に承認済みだ。
国内農業はかつてない圧力を受けている。種子法廃止、種苗法改正、そしてコメの生産調整も18年から民間主導に移行、今の価格暴落をもたらしている。
岸田首相はこの農業現場の現実から目を背けてはならない。農家にはかつての「民主党時代が良かった」という人も多い。有権者は総裁選劇場から目を覚まし、冷静な審判が必要だ。それが為政者に農業衰退を転換させる土台になる。
(KyodoWeekly・政経週報 2021年10月25日号掲載、衆院選前に執筆された記事です)
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