食品EC市場、コロナで拡大 定期ユーザー増加が課題 大篭麻奈 矢野経済研究所フードサイエンスユニット主任研究員
2021.11.10
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が始まって、およそ2年。日本ではワクチン接種がある程度進んだことにより、落ち着きを見せつつある。しかしワクチン接種後も諸外国では感染再拡大がみられており、日本でも第6波への懸念から、コロナ前の生活・消費への回復には、まだ時間がかかる見通しである。
コロナによって私たちの生活は大きく変化したが、そのひとつが食品購入時における電子商取引(EC)の活用ではないか。人との対面接触を避け、自宅にいながらにして日々の買い物を完結できるECは、コロナ禍を契機にユーザーが大幅に拡大。コロナ後の定着を見据えて、ネットスーパー業界などでは巨額投資も散見される。
こうしたことを背景に、食品通販の2020年度の市場規模は、前年度比13.1%増と2桁台の成長となり、4兆3057億円と初めて4兆円を突破した。しかし食品通販市場も決してばら色というわけではない。同市場の現状と、拡大に向けた課題について考察してみた。
新たなユーザー生み出す
本稿では、食品通販市場とはショッピングサイト、生協(戸別に届ける「個配」とグループ利用の「班配」の合計)、自然派食品宅配・通販、ネットスーパー、食品メーカーのダイレクト販売(直販)の合計と定義する。カタログ、チラシ、テレビなどの媒体を通じた受注も含める。
20年度の構成比は、ショッピングサイトが39.7%、生協が37.2%、食品メーカーのダイレクト販売が16.8%、ネットスーパーが3.9%、自然派食品宅配・通販が2.4%となった。
ここ数年のトレンドとして、アマゾンや楽天市場が含まれるショッピングサイトの成長が著しく、市場拡大を牽引してきた。食品の無店舗販売サービスとしては、生協の構成比が圧倒的に高かったが、ショッピングサイトはそれに並ぶ規模へ成長した。生協も個配は堅調に推移しており、ショッピングサイトは生協の売り上げを奪っているわけではなく、新たなユーザーを作り出したといえるだろう。
在宅時間を充実させるグルメ通販
一度目の緊急事態宣言が発出された2020年4~6月は、食品の巣ごもり需要やまとめ買いが急増し、長期保存が可能な米や飲料、乾麺、レトルト食品、インスタント食品、シリアルなどが大きく売り上げを伸ばした。
しかしこうした特需は20年夏以降、沈静化し、自粛期間が長期化するにつれて、在宅時間を充実させるために、普段よりおいしい高品質な食品を「お取り寄せ」する需要が高まる結果となった。そして、コロナ禍が長期化している21年も、そのトレンドは引き継いでいる。
こうした中、20年4月以降、食品通販市場では、ここ数年で比類ない数の新規参入がみられた。これに伴って市場は活性化しているが、一方で競争も激しくなっている。
特に活発なのは百貨店のECサイトをはじめ、全国各地のグルメ品を取り寄せるグルメ系ECで、生鮮食品や酒類が目立っている。コロナ禍で外食産業が大打撃を受けており、飲食店が店舗で提供するメニューを冷凍してECで販売したり、外食産業向けに提供していた食材を、食品ロス削減も関連付けて訴求しながら、家庭向けに販売するといった動きが加速している。
酒類も同様に、飲食店における需要が激減する一方で、家飲みが拡大していることから、家庭向けに販売する動きが加速した。こうした取り組みが広がっている背景には、個人で手軽にネットショップを開設できる「BASE」や「SORES」といったネットサービスの存在も大きいだろう。
従来のECプラットフォームのように、ネットショップを維持するための固定支出がかからず、商品が売れた時にだけ、定められた料率の手数料を支払うというビジネスモデルが多い。そのため飲食店にとっては、店内とECの販売を両立しやすいというメリットがあるのだ。
定期利用につなぐ施策が重要
コロナ禍をきっかけに、食品をECで購入するユーザーが増加したことは確かであるが、今後の市場拡大の鍵は、この新規ユーザーの定着である。生協や自然派食品宅配・通販のような定期購入のビジネスモデルは、新規利用者も比較的定着しやすいが、ショッピングサイトやネットスーパーのような都度購入サービスは、定期的なサービス利用につなげる施策が必要である。
これは各サービス共通の課題であり、当初からサブスクリプションサービスとしてサービス設計するケースもあれば、定期的なクーポン配布によって購入につなげるケースもある。
ECの利用拡大により、クーポンやメールマガジンの受信が増えた。これによってメルマガなどの開封率が落ちているという声も聞かれる。消費者により届きやすいLINEやツイッターなどSNSの比重を高める動きも見られており、販促施策もコロナ禍で変化した消費者の生活に合わせた選択が必要になりそうだ。
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