プール制で資源守る 富山湾シロエビ漁の取り組み 佐々木ひろこ フードジャーナリスト(Chefs for the Blue代表)
2021.11.15
「地元ではサステナブル(持続可能)な漁を行っています。一度、漁師と話をしに来ませんか?」海の未来を考え、日本の食文化を未来につなぐために、シェフチームとしてさまざまな啓発活動を続ける中で、各地の地方自治体からこのようなお問い合わせをいただくことがある。
事前に何度かお話を伺った上で、視察させていただきイベントの開催を担当した自治体がいくつかあるのだが、そのうちの一つが富山県射水市だ。
懐の深い富山湾の西側、射水市の新湊漁協を訪ねると、所属する若手シロエビ漁師たちの取り組みは実にすばらしかった。持続可能な漁業として、日本ではまだ少ない成功事例なので、少し紹介したい。
「富山湾の宝石」とも呼ばれるシロエビは、日本では富山湾にしか生息が確認されていない高価で貴重な水産物だ。新湊漁協のシロエビ漁船全9隻がチームを組んだ「富山湾しろえび倶楽部」では、2班に分かれて1日おきに網漁を行うシステムを導入。データをもとに研究者と持続可能な漁獲量の検討を行い、全体の水揚げ量を調整しながら、水揚げ金額はプールした上で各船に均等に配分するという仕組みをつくり上げた。
現在までのところ船ごとの漁獲量制限がない日本では、一般的に同じ海域で漁を行う漁業者同士は、資源の取り合いから早獲り競争が起こり、資源の枯渇につながりがちだ。
しかし、プール制ならば、「皆で分け合う」ために不要な競争は起こらない。もし次世代のために守るべき稚魚が網に入り始めたら、即座に漁を停止したり、皆で協議の上、以降の操業回数を減らしたりすこともできる。このような手法で資源の枯渇を未然に回避し、自分たちの手で資源を持続的に守り続けているのだ。
視察当日は漁師たちと意見交換を行い、早朝から漁船に乗って漁とセリを見学し、仲卸など水産関係者との懇談や魚屋の見学と、地元料理人との交流も行った。(写真:朝5時半出港のシロエビ漁船で漁師の野口さんとシェフ3人=2019年11月、筆者撮影)
1泊2日の忙しい日程だったが、同行した3人のシェフたちは皆、水産業の課題についてより能動的に考えるようになったとともに、以降も旅で出会った生産者や料理人たちとのつながりを深めているようだ。
このような視察の旅は、多忙を極めるシェフたちのスケジュールが許す限り、今後も続けていきたい。
(Kyodo Weekly・政経週報 2021年11月1日号掲載)
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