地域が高めるブランド 明治起源の大阪のブドウ 野村亮輔 アジア太平洋研究所研究員
2021.10.18
大阪税関の発表で、2021年1~4月期のイチゴの輸出が全国と近畿圏で過去最高を更新したとあった。うち、香港向けの輸出が多く、全国と近畿圏ともに全体の7~8割を占めている。(写真はイメージ)
背景として、コロナ禍で海外旅行ができず、巣ごもり需要が大きいことなどがあるようだ。また、イチゴ以外にブドウやモモの輸出も多く、これらの青果物は主に関西国際空港から運ばれている。
こうした青果物の代表的な産地は主に関西以外の地域が多いが、実は関西でも栽培が盛んな地域がある。特に大阪府は、ブドウの栽培面積は全国第9位、収穫量も全国第8位と全国上位だ(2020年産)。さらに、デラウェアの栽培面積は全国第3位であり(2018年産)、全国有数のブドウの産地といえる。
大阪府のブドウ栽培が盛んとなった背景は、300年前の明治時代にその起源がある。
1878(明治11)年頃に堅下村(現在の中河内地域の柏原市)にブドウの苗が移植されたことが始まりとされている。当時、日本ではブドウの生産が盛んではなかったため、農業振興のため政府から苗が配布されたと聞く。
また、中河内周辺は瀬戸内気候で、雨が少なくブドウ栽培に適した地域であったことも奏功したようだ。こうした国からの支援や地理的な好条件もあり、栽培面積は最盛期で979㌶もあったとされている。これは阪神甲子園球場753個分に相当し、当時の生産体制の大きさがうかがい知れる。現在は都市化の影響などもあり、農園の規模は縮小しているが、大阪府のブドウは「大阪産(もん)」として、府のブランド品であり、ブランド価値は高い。
河内地域では長くから培ったブドウ栽培を生かし、ワインの醸造にも力を入れている。この地域のワイナリーは100年以上の歴史があり、西日本最古のワイナリーも有している。2000年代に入ると、ワインブームの影響もあり、新規ワイナリーが設立され、大阪府を代表するブランド産品の一つとなった。
この地域で醸造されたワインは2019年に開催された20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)において振る舞われるなど、世界的に認知され始めている。今年6月には国税庁から特定の地域の食品などのブランドを保護する「地理的表示(GI)」も取得し、一層ブランドの価値を高めている。
このように大阪府のブドウのブランド価値は、コロナ禍でも失われるどころか、むしろ一層磨き上げられていると筆者は思う。
その理由は、私見だが、その地域の歴史や自然、そして栽培に携わる方々などがどれ一つ欠けることなく、調和して、相互的に機能しているからではないかと考える。栽培する体制や規模の変化はあるものの、長い歴史をかけて作り上げられた風土は変わらない。非常に質の高い産品が生まれる土壌がこの地域にはあると思う。
まさに、地域(プレイス)全体でブランドを高めていると言えるのではないだろうか。いまだコロナ禍で行動に制約がかかる状況ではあるが、収束した際にはぜひ一度ワイナリーに足を運んでみたい。
(KyodoWeekly・政経週報 2021年10月4日号掲載)
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