心動かす「おいしさ」 素材を大切に思うために 佐々木ひろこ フードジャーナリスト
2021.10.04
「Chefs for the Blue」は海の未来を考える~日本の水産資源を守り、食文化を未来につなぐ~ことを目的にした料理人のグループだ。約30人のメンバーたちは東京を代表するトップシェフたちで、これまで食のイベントを数多く開催してきた。
第1回目は2017年11月、東京・青山のファーマーズマーケットで行ったフードトラックイベントだった。3台のフードトラックに各2人、計6人のシェフが乗り込み、環境に配慮した漁業で生産されたシーフードの料理を販売した。
たとえば、東京湾で持続可能な漁業を目指す漁業者のスズキを使った、バターの香り高い「たい焼き」(写真右)とフランス料理の濃厚なスープ。宮城県で環境負荷を低減しながら養殖されている銀鮭(現在はASC認証取得)とアラスカのイクラをのせ、黄金色のだしを注いださけ茶漬け。北海道産のサステナブル(持続可能)なホタテ貝を使った、クリーミーでうま味たっぷりのテリーヌ。
その他、全8種類の料理を1日限りで販売します!とSNS上で発表したところ大きな反響を呼び、当日は11時の販売スタート前から整理券を求めて長蛇の列ができた。
一方で、メディア向けにも国際漁業認証団体や企業と共同でさまざまなダイニングイベントを行っている。特に2018年末の漁業法改正に始まる水産改革スタート前は、水産資源の正確な現状とその原因がすべてのメディアに十分認知されているとは言えなかったため、彼らと情報や課題感をきちんと共有し、社会に向けて発信する仲間になっていただきたいとの思いからだった。
さて、大小どんなイベントであっても一貫する私たちのこだわりは「おいしさ」だ。食の分野で、エシカル(倫理的)な消費の推進、社会課題の解決というSDGs的な側面だけではなかなか人の心は動かせない。
しかし、そこに「おいしさ」という絶対的な価値を持たせることで、素材を心から大切に思う気持ちが生まれ、問題意識が高まると信じているからだ。
そのおいしさをどうつくるかという方法論や技術の面で、料理人に勝る者はいない。「このおいしい料理を、そしてこのおいしい魚を、10年後も20年後も、その先もずっと食べ続けることができますように」ー私たちのイベントで、そんな思いを持ってくれる生活者が1人でも増えてくれたら、その企画は成功だと思っている。
(KyodoWeekly・政経週報 2021年9月20日号掲載)
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