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米価暴落から水田機能守れ  転作誘導策の充実を  小視曽四郎 農政ジャーナリスト

2021.09.27

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米価暴落から水田機能守れ  転作誘導策の充実を  小視曽四郎 農政ジャーナリストの写真

 梅雨末期の再来のような大雨が田んぼを海に変える。自然の脅威は、年に一度の稲作農家の収入機会を簡単に奪う。今年はその上、米価暴落が稲作農家に襲いかかる。「生産調整が民間主導に移って以降最悪」(JA担当者)、「千葉の早場米は昨年の3割、4割安。JAなどの集荷業者が生産者に支払う仮渡金(概算金)も2割近く安い。過去最大級の6万㌶を超す主食用米の作付面積の削減をしたのに~」(同)との嘆きが聞こえる。

 主因の一つはコロナ禍による需要減だ。消費者には「コメが安く買えてうれしい」と喜ぶ人がいるかもしれない。ただ、この暴落はコメの生産者や法人経営を窮地に追い込む。稲作への意欲もそぐ。事態を放置したら今でさえ歯止めのかからない担い手の減少が進み、同時に水田も放棄・改廃される。(写真はイメージ)

 そのツケは最後に消費者・国民全体に回ってくる。まずは担い手や水田が減れば食料の確保に響く。2020年度、過去最低の37%となった食料自給率(カロリーベース)の下降は不可避だ。気候変動やコロナ禍で世界で持続的な食料確保の重要性がいわれる中、日本国民はこれを放置できるか。

 水田には防災機能もある。政府は気候変動による洪水対策に25年度目標の「流域治水推進行動計画」を初めて策定。そのひとつに、水田に雨水を一時的に蓄える「田んぼダム」の面積を12万㌶超にする目標を決めた。

 現在の目標の4万㌶を一挙に3倍以上に引き上げた。水田は食料や防災だけではなく、大気の浄化、多様な生物の維持・存続など文字通り多面的な役割があるといわれるが、その減少は国民の目に見える以上に大きな影響をもたらすかもしれない。

 ではどうするのか。コメの需給均衡のために、水田活用の直接支払い交付金(20年度3050億円)として麦、大豆、飼料用米などへの転作助成に充てている。

 しかし、作柄が不安定、栽培技術の蓄積や労力不足などで、できれば主食用米を栽培したいのが農家の本音だ。つまり今の交付金水準ではコメからの転作誘導は不十分なのだ。

 転換作物について、基本計画では30年の目標として、小麦108万㌧、大豆34万㌧を決めたが、まだまだ努力が必要だ。飼料用米に至っては20年産は38万㌧だったが、飼料業界では年間130万㌧、農水省試算では450万㌧余りの潜在需要があるとする。

 食料自給率を向上させ、毎年のコメの需給調整をめぐる騒ぎを止めるには、まずは麦、大豆、飼料作物への転換を促すように価格・所得補償政策を充実すべきだ。そうすれば気候変動による国民生活のリスクに多面的に対応するコメ農家や水田機能を維持できる。水田農業は国民生活のインフラなのだ。

(KyodoWeekly・政経週報 2021年9月13日号掲載)

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