「なかめスタイル」に注目 共感で広がる地域主体の動き 竹内幹太郎 富士通総研公共政策研究センター上級研究員
2021.09.27
都市では、地域資源を活用しながらエリアの経営に取り組む「エリアマネジメント」の重要性が日増しに高まっている。開発を契機に進む場合が多い中で、東京都目黒区の中目黒では、まちの目指す姿や行動に関するメッセージを発信して、共感を得ることで、地域に関わる人々が中心となったエリアマネジメントが進んでいる。
持続性の高いエリアマネジメントを形成するためには、①エリアの主体・関係者がエリアの課題や目標・取組方針を共有した上で②実行を担うメンバーが集い③エリアマネジメントの核となる事業づくりを行うことが重要となる。東京都目黒区の中目黒でこのような観点からの活動が実践されている。
目黒区は中目黒駅から半径500㍍の範囲を「中目黒駅周辺地区」と設定し、2013年3月に本地区を対象とした整備計画を策定するとともに、同年7月に地区の町会や商店街などの代表者で構成する「中目黒駅周辺地区街づくり協議会(以下、街づくり協議会)」を設立し、区と地域の住民や事業者などでまちづくり活動を進めてきた。
そして2016年5月からは、活動の一環としてまちなかのマナーに関するルールづくりに取り組んだ。中目黒は商業・業務・居住機能などさまざまな顔を持つ人気のまちであるが、その一方で、ゴミのポイ捨てや放置駐輪、自転車の危険走行、歩道への置き看板・のぼり旗の設置などの課題が発生している。このため、街づくり協議会ではまちの規範となるルールが必要と考えた。
プレーヤーの発掘
しかし、任意のルールづくりによるアプローチは効果に限界があった。そこで、2017年12月に、まちへの愛着や誇りをもち自ら行動することを「なかめスタイル」と位置づけた。
中目黒には街づくり協議会の委員をはじめ、中目黒に愛着や誇りをもつ住民・事業者・来街者が多くいる。その人々に目指したい姿や行動を伝えるメッセージを示し、共感を得ることで人々の行動を喚起したいと考えた。
また、それまでの中目黒の実情として、新たなライフスタイル・働き方に対する感度の高い人材や先進性・社会貢献性の高い企業などが多く集まっているが、まちづくりで連携する機会を創出できていなかった。
そのため、なかめスタイルに関する活動の第1弾として、2018年2月になかめスタイルに示すまちの目指す姿・行動を伝えるためのリーフレット・ロゴ作成を、地域の事業者に委託するプロポーザルを実施して、地域でなかめスタイルに資するまちづくり活動を主体的に進めるプレーヤーの発掘に取り組んだ。
この結果、なかめスタイルの趣旨を踏まえ、リーフレット・ロゴ作成を基点に地域の関係者と連携したまちづくり活動を進めるための具体的な提案があった日本デザインが受託。その後、日本デザインがなかめスタイルを実現するための活動のキープレーヤーとして、活動を実行する役割を担うこととなった。
なかめスタイルの推進にあたっては、街づくり協議会メンバーと日本デザインで、桜開花の時期のゴミやマナーの問題解決を目指す「NAKAME KEEPING CLEAN 2019」や、地域住民同士の交流を促す「NAKAME TOWN MEETING」など、中目黒の課題解決や価値向上を目指したさまざまな活動に取り組んだ。
実施にあたっては、なかめスタイルの考えに賛同した企業と連携しており、なかめスタイルというメッセージを示して共感を得ることで新たなプレーヤーとの関わりを創出していった。
一方で、これらの活動を継続するにあたっては体制と資金が不可欠である。そのため、なかめスタイルの活動を、地域資源を活用したエリアの経営に取り組む「エリアマネジメント」活動へ発展させるため、2019年10月に「ナカメエリアマネジメント準備会」を設置して協議を進め、20年10月に街づくり協議会の下部組織として、「一般社団法人中目黒駅周辺地区エリアマネジメント(以下、ナカメエリアマネジメント)」が設立された。
公共資産の活用
組織の持続可能性を担保するためには核となる事業が必要である。このため、ナカメエリアマネジメントの核となる事業として、現在、公共空間・公共施設の活用による事業を進めている。
具体的には、2011年の休館以降十分に活用されていなかった「目黒川船入場及び旧川の資料館」を活用する。船入場では、19年11月よりイベント開催などの実証実験を実施しており、20年10~11月には、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受ける地域の飲食店支援を目的としたキッチンカー販売を実施した。
現在は、継続的に実証実験を実施するとともに、区が河川法に基づく施設である目黒川船入場および旧川の資料館をナカメエリアマネジメントに貸し出すため、船入場の管理者である東京都との特例占用許可の手続きを進めている。手続きが完了次第、ナカメエリアマネジメントは本格運用を開始して、本事業を収益源としたエリアマネジメント活動を展開する。
まちの目指す姿や行動を地域のメッセージとして発信して、共感を得ることで地域に愛着や誇りもつ人々がまちづくりに関わるようになり、地域主体の活動を展開していく。そして、まちの資産を有効活用することで、持続的なエリアマネジメントへと発展できる可能性がある。中目黒での活動がそのモデルケースとなることが期待される。
竹内 幹太郎(たけうち・かんたろう)富士通総研公共政策研究センター上級研究員。2012年富士通総研入社。主に地方自治体や府省などの公共分野を対象とした調査研究に従事。特にまちづくり・都市政策・産業政策に関する調査研究に従事。「地方財務 2020年10月号」(ぎょうせい)に「持続可能なエリアマネジメントの形成プロセスとポイント」を執筆、掲載されている。
(KyodoWeekly・政経週報 2021年9月13日号掲載)
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