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客席ない「ゴーストレストラン」も  拡大する食品宅配市場  川崎順子 矢野経済研究所フードサイエンスユニット上級研究員

2021.09.14

客席ない「ゴーストレストラン」も  拡大する食品宅配市場  川崎順子 矢野経済研究所フードサイエンスユニット上級研究員の写真

 新型コロナウイルスの感染拡大以降、飲食店の宅配サービスが充実する中で、店内に飲食スペースのない、調理施設のみの飲食店が注目を集めている。「ゴーストレストラン」や「バーチャルレストラン」などと呼ばれ、複数の店舗が共同利用する施設は「クラウドキッチン」や「シェアキッチン」とも言われる。

 ゴーストレストランは米国発祥と言われ、主にネットで注文を受けて調理し、顧客に料理を宅配するサービス形態である。来店客がいないため立地にこだわる必要がなく、ホールやスタッフルームといったスペースも、接客のための従業員も不要なことから、開業コストを大幅に削減できる。

 クラウドキッチンを複数の店舗でシェアすれば、より少ない資金で出店することも可能である。従来の飲食店が空き時間を利用して、別業態(ブランド)のゴーストレストランを展開するスタイルもあり、コロナ禍で来店客が激減している飲食店の新たな"副業"としても注目されている。

 ゴーストレストランの躍進に不可欠なのが、宅配代行サービスの「出前館」や「Uber Eats」といったプラットフォーム事業者である。ゴーストレストランは通常、集客や注文受付、配達、集金といった業務を自らは行わず、プラットフォーム事業者への業務委託により時間と労力、コストを削減し、調理に集中することができる。コロナ禍を契機として食品宅配サービスが普及したことで、日本の外食産業は大きな転換期を迎えようとしている。

 株式会社出前館によれば、外食産業における"出前"の歴史は長いものの、現代の出前(フードデリバリー)が外食産業に占める割合は5%にも満たないと推計されており、諸外国に比べて低い。裏を返せば伸びしろが大きいということで、同社は今後も食品宅配市場の拡大は続くと予想している。

 20213月には、出前館とUber Eats Japanmenu、ライドオンエクスプレスホールディングス、楽天など食品宅配サービスを提供する13社を会員として、一般社団法人日本フードデリバリーサービス協会が設立された。

 食品宅配サービスの需要が拡大する一方で、配送に関するさまざまな課題が顕在化している。協会はこれらの課題に業界横断で対処し、安心・安全にサービスを利用できる環境を整備して、サービス水準の向上を図るとしている。食品宅配サービスが社会インフラの一部として定着するよう、行政への働き掛けも行っていくという。

 矢野経済研究所の調べでは、2020年度の外食チェーン・ファストフード宅配を含む食品宅配市場は、前年度比14.3%増の24969億円に拡大した。16年度に2兆円の大台に乗り、少子高齢化の進行で国内の食関連市場が縮小傾向にある中でも成長を続けてきた。

 20年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響で宅配需要が急増し、2桁台の成長を記録。中でも成長率が高かった外食チェーン・ファストフード宅配市場は、前年度から40%以上拡大した。

 食品宅配市場は感染収束の兆しが見えない中で21年以降も成長を続けており、20年度から25年度までの年平均成長率は3.3%と引き続き順調に推移し、25年度の総市場規模は29321億円に達すると予測している。

 外食チェーン・ファストフード宅配市場については、コロナ後に外食需要は復活するものの、大きく変化したライフスタイルや価値観が元に戻ることはなく、今後も配達需要の伸びは高い水準を維持すると予想する。

 消費者のリアル店舗と宅配サービスの使い分けが進み、それぞれが付加価値の高い商品やサービスを開発・提供していくことが期待できる。

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