問題視される技能実習制度 米国務省の人身売買報告書 共同通信アグリラボ所長 石井勇人
2021.09.12
「多様性と調和」をコンセプトの1つに掲げた東京2020(五輪・パラリンピック)が終わり、人権についての認識が深まったと期待したい。この開幕直前のタイミングで米政府が公表した人身売買に関する報告書は、外国人労働者の人権について問題を指摘しており、農業生産にも直結する身近な課題として真剣に受け止めるべきだ。
米国務省が7月1日に発表した「世界各国の人身売買に関する2021年版の報告書」(Trafficking in Persons Report)は、日本の外国人技能実習制度について「外国人労働者搾取のために悪用し続けている」と指摘、日本政府の取り組みは「最低基準を満たしていない」とし、国・地域別の評価では上から2番目のランク(Tier2)に据え置いた。先進国ではドイツやイタリアと同ランクだ。
「合格」と言える最上ランク(Tier1)には、米、英、フランス、スウェーデン、オーストラリア、フィリピン、台湾、韓国など28カ国・地域が認定され、中国は北朝鮮やロシアとともに最下位の第3ランク(Tier3)だった。
中国の場合、新疆ウイグル自治区などでの強制労働が問題として指摘され、既に不買運動という形でサプライチェーン(供給網)に影響を与え、日本の衣料メーカーも巻き込まれている。日本では、どこか遠くの途上地域で起きている社会問題として受け止める傾向があるが、国際物流や通商に直結した経済問題としての側面も認識するべきだ。
米国務省は報告書の発表に合わせて、人身売買と闘う「ヒーロー」を各国から選び、その1人である弁護士の指宿昭一さんはビデオ会見で「外国人技能実習制度は人身取引と中間搾取の温床だ。数年以内に廃止に追い込む」と意欲を語った。
米国務省の報告書について、日本政府は「米国の国内法の基準に照らし、独自に策定されたものだ。政府として意見は述べない」(加藤勝信官房長官)と無視する姿勢だが、技能実習制度を問題視しているのは米政府だけではない。
オーストラリアのNGOウォーク・フリー財団は「現代奴隷のグローバル推計」Global estimates of modern slavery)の最新版(18年)で、日本には3万7000人の「現代の奴隷」がいると推計、「政府対応」の格付けはCCC(10段階で下から4番目)で、外国人技能実習制度の廃止を勧告している。
英国は2015年に、同国内で事業活動する大企業に対して奴隷・人身売買に関する情報開示を求める「現代奴隷法(Modern Slavery Act 2015)」を制定しており、日系企業も対応を迫られている。
経営規模を拡大している農業の生産現場では、もはや外国人労働者は不可欠な存在であり、外国人技能実習制度を利用している経営者も多い。滞在期間の延長や転職が可能で人材派遣にも対応できる特定技能制度を積極的に活用しようとする動きも出ているが、外国人労働者の人権について海外からは厳しい目が向けられていることを自覚するべきだ。(共同通信アグリラボ所長 石井勇人)
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