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羽田に集う7つの村  情報発信、物品販売で連携  沼尾波子 東洋大学教授

2021.09.20

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羽田に集う7つの村  情報発信、物品販売で連携  沼尾波子 東洋大学教授の写真

 「小さな村(g7)サミット」という会合がある。全国を七つの地域ブロックに分け、各ブロックで(離島を除いて)人口が一番少ない自治体の代表が集うもので、2016年に始まった。

 構成自治体は、北海道音威子府村、福島県檜枝岐村、山梨県丹波山村、和歌山県北山村、岡山県新庄村、高知県大川村、熊本県五木村。これら7村の首長が年に1回、一堂に会し、地域課題についての情報共有を図るほか、それぞれの地域の特産品ギフトボックスなどを開発し、東京都大田区蒲田のアンテナショップで販売も行っている。(写真:JR蒲田駅ビルグランデュオ東館3階の「小さな村g7 TOKYO」=8月、筆者撮影)

 今年7月9日、このg7に大田区が加わった「g7+1サミット」が、羽田空港に隣接するHANEDA INNOVATION CITYで開催された。人口数百人という七つの村の首長と、首都圏で人口73万人を擁する大田区長が、日本の空の玄関口である羽田空港エリアで新しい全国連携のかたちについて議論するイベントとなった。

 東日本大震災以降、距離の離れた遠隔自治体間で災害協定などの連携を図る動きは活発化している。また、大都市と農山村が、観光や物産販売などで、PRや情報提供を行う連携事業も各地でみられる。

 だが、g7+1は、こうした従来型の遠隔自治体間連携とは少し異なる取り組みを模索しているようだ。サミットでは、「行政規模や地域課題が異なる自治体同士が産業連携や地方創生推進に向けてお互いを尊重し、それぞれが抱える地域課題を話し合い、不足するリソースを相互補完しあう」ことを宣言し、互いの強みや課題を提起しあった。

 東京都大田区は、トップレベルの高度なものづくり産業で知られる地域であり、「下町ロケット」や「下町ボブスレー」などの小説のモデルになった中小製造業が集積する。これに対し、g7の村々は、面積の大半を森林に覆われ、農林水産業や観光業を生業とする地域である。

 山村地域における現場の課題を解決する上で、大田区内のものづくり産業の有する技術を活用できないか。小さな村を羽田から発信することで、海外の人々とつながりを創るきっかけが生まれないか。大都市と農山村それぞれで暮らす子どもたちの交流機会の創出や、学びの場を共有することで、多様な学びの機会を確保できないか。会議では、連携に向けたさまざまなアイデアが飛び出した。

 今回の連携は、多摩川の上下流連携という側面もある。g7のメンバーである山梨県丹波山村と東京都大田区は、それぞれ多摩川の最上流と河口部に位置する。丹波山村は100年以上に渡って東京の水源林を守ってきた。豊かな水資源とそれをはぐくむ森林に恵まれた国土を次世代に継承していくためには、都市部の理解や協力も必要だ。

世界への玄関口ともいえる羽田空港エリアに農山村がアクセスし、情報共有や発信の機会を持つことで新たな取り組みが生まれることを期待したい。

(KyodoWeekly・政経週報 2021年9月6日号掲載)

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