オーストラリアの代替肉市場拡大 食肉業界は強く警戒 NNAオーストラリア
2021.08.27
会計大手デロイトと食品シンクタンクのフード・フロンティアによると、2020年の代替肉のオーストラリア国内の売上高(小売りベース)が、1億8500万豪㌦(1豪㌦=約79円)を超えたことが分かった。
植物由来の肉代替製品数は200種類以上そろい、今後代替肉はオーストラリアの食肉市場の10%を占めるとみられている。30年の代替タンパク質食品の売上高は30億豪㌦にまで成長するとみられ、業界は急拡大中だ。
一方で昨今の植物由来食品の隆盛に対する動物性タンパク質食品業界の危機感は強く、「食肉VS代替肉」の争いは激化する様相を見せている。(写真はイメージ)
農相が家庭への推奨を非難
オーストラリア科学産業研究機関(CSIRO)は、代替タンパク質食品の国内市場は急成長すると見込む。30年の市場規模は41億豪㌦に達し、輸出規模は25億㌦になると分析。18年の時点では国内市場規模は22億豪㌦で、輸出市場規模は15億豪㌦だ。
さらに同機関は家庭や子どもに向けて、持続可能性と健康の観点から食肉ではなく植物由来食品を摂取するよう推奨し、波紋を呼んだ。リトルプラウド農相は家庭への推奨は同機関の業務外だと非難しただけでなく、赤肉(哺乳動物の肉など)は栄養バランスの良い食品だと強調した。
フード・フロンティアのキング代表は「消費者の『健康に対する意識』と『環境と倫理的な問題意識』が、代替食品業界の指数関数的な成長の背景にある」と指摘した。
代替タンパク質食品は「脅威」?
動物性タンパク質業界は、代替肉業界の拡大に神経をとがらす。牛羊肉や鶏肉、魚介類の各業界を代表する9つの団体は協力して消費者調査を実施し「25%の消費者が植物由来の製品に動物性タンパク質が含まれると誤って認識した」などとした結果を発表した。
9団体はこの結果を携え、連邦上院委員会に対し「代替食品の表示が食肉産業へ潜在的な損害を与えている」と調査を付託。9団体を代表して国民党のマクドナルド上院議員は「食肉業界は利益と知的財産を開発するために毎年数億豪ドルを投資しており、この投資は守られるべきだ」と強調した。
この訴えに対し、今年3月に設立された代替タンパク質評議会(APC)は「失望した」と表明。「新たなタンパク質業界の勃興が、従来のタンパク質業界の障害となり、農家や地域社会の脅威となるというのは明らかに誤りだ」とした。
またAPCは、植物由来食品は消費者の需要増を背景に「新たに成長する食品分野」で、「栄養素も平均して従来の肉製品よりも高い」とした上で「農家らも植物由来タンパク質から利益を得る立場にある」と強調した。
評価はまちまち
APCの主張に反し、代替食品が健康や環境に良いというイメージは間違いだという見方もある。シドニー大学で肥満を研究するフラー博士は「ビーガン(完全菜食主義者)用ホットドッグは、通常のホットドッグよりも健康に良いわけではない」と強調。加工食品である代替肉は、製造の過程で20~50種類もの添加物が含有されると指摘し、脂肪分と砂糖が大量に含まれていることが問題だとした。
また保健・医療研究所ジョージ・インスティテュートは、市販の「ミートフリー・ソーセージ」1食分には1日の最大摂取量の半分の塩分が含まれていると指摘し、英オックスフォード大学も植物由来肉は製造時に、非加工の野菜の5倍の炭素を排出し、培養肉は牛肉生産と同程度の炭素を排出する場合があると分析している。
しかしこうした声は消費者には届きにくい。オーストラリアの代替肉開発会社V2 FOODに出資するメインスクエアベンチャーズは「代替肉の栄養素は、業界の成熟に伴い改善される」と前向きで、「完全食品の大豆をなぜあえて牛肉の類似品に加工するかと言えば、伝統的な慣習に基づく食事のメニューが変化しないからだ」とも話し、批判的な意見を意に介さない。
牛肉消費量は20年で4割減
実際にオーストラリアの赤肉消費量は、減少傾向にある。市場分析会社トーマス・エルダーズ・マーケッツによると消費者1人当たりの年間牛肉消費量は、2000年の37.5㌔から20年には22㌔と、41%減少した。
羊肉も同12.5㌔から同6.5㌔と半減だ。市場調査会社IBISワールドは、今後オーストラリアの国内の食肉売上高は減少し、業界は収益の伸びを海外に求めざるを得ないと指摘する。だが短期的には畜牛価格の高騰や競合の増加により、昨年度の牛肉輸出量は90万8132㌧と、前年比25%減少した。
オーストラリアのベジタリアン(菜食主義者)の数は、250万人以上と全人口の12%を超えるとされ、ニュージーランドでも1割超とみられる。代替食品を含むベジタリアン向け食材市場は2023年までに64億豪㌦に上るという試算もある。
植物由来食品を推奨したと、食肉業界などから非難されたCSIROは「畜産や酪農を軽視したわけではない」と釈明。「動物性タンパク質は常に食料として重要な役割を担う」とし、「植物性タンパク質は動物性を補完し、世界の人口が増加する中でタンパク質はより持続可能でより多様な供給源から生産される必要がある」とした。
(オセアニア農業専門誌ウェルス(Wealth) 8月27日号掲載)
【ウェルス(Wealth)】 NNAオーストラリアが発行する週刊のオセアニア農業専門誌です。
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