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北海道の食料供給拡大へ  JAPICの津軽海峡トンネル構想  神尾哲也 日本プロジェクト産業協議会国土・未来プロジェクト研究会委員

2021.08.30

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北海道の食料供給拡大へ  JAPICの津軽海峡トンネル構想  神尾哲也 日本プロジェクト産業協議会国土・未来プロジェクト研究会委員の写真

 日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)は昨年11月、「津軽海峡トンネルプロジェクト」を提言した。このプロジェクトは、片側1車線の自動運転車専用道路、および単線鉄道貨物を併用したトンネル1本を津軽海峡に新設するものだ。(上図:JAPIC作成、以下同)

 この構想により、北海道から本州、四国、九州の四島がすべて鉄道および道路の陸上交通でつながる物流ルートが完成し、そのストック効果により産業のさらなる成長を加速させることが可能となる。

 現在、北海道と本州間には鉄道路線があるのみで、物流、旅客流動の根幹である道路が津軽海峡で途切れている。青函トンネルでは、北海道新幹線と貨物との共用により、新幹線本来の高速性が発揮されていない状況となっている。

 特に、北海道は農業王国であり、食料供給基地として日本を支えている。全国の収穫量のうち、道の占める割合は1977年の8%(8450億円)から2017年の14%(1兆2762億円)へ拡大している。

 今後、日米貿易協定などの自由化により、日本の食生活は安価な輸入農産物に取って代わる可能性があるため、北海道の農産物を守り、今日のコロナ禍を受け、食糧安全保障の観点から国内食料自給率を向上させなければならない。

 そのためには、本州への安定的な輸送ルートの確保や、高止まりしている輸送コストの縮減が不可欠となる。

高速道路と貨物鉄道併用


 現在、本州~北海道間は青函トンネル(1988年開通、全長53.85㌔)の鉄路でつながっているが、「JAPIC津軽海峡トンネルプロジェクト」では、高速道路と貨物線(単線)を併用した新たなトンネル1本を、津軽海峡に新設する構想を提案した。建設には調査設計を含め約15年を見込む。概算事業費については約7200億円(税抜き、調査設計費を含む)を想定している。

 このトンネルは密閉型で湧水がなく、超高強度コンクリートを採用するため、トンネルの高品質・高耐久化が図られ、維持管理費を縮減し、長寿命化の実現が可能となる。

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 プロジェクトの進め方については、PFI方式(BTO、サービス購入型)での実施を想定している。民間のノウハウを活用し、建設費などのコスト縮減、開業後の運営を行い、事業の効率性を高めることが狙いだ。

 「サービス購入型」を採用すれば、料金収入に左右されず、事業の安定性を確保することも可能となる。独立採算型と比較して、金利、配当率を下げることができ、償還年数を短縮できることも特徴である。

 主な収入源については、通行料・鉄道トンネルリース料金他とし、通行料金は大型車1万8000円(往復3600台/日)、普通車9000円(往復1650台/日)に設定している。この設定した通行料、通行台数よりシミュレーションされた償還年数は、約32年となる。

経済効果、年878億円


 本州と北海道が鉄道と道路で結ばれることで、さまざまな経済効果を、北海道だけではなく本州にももたらし、日本の未来、これからの世代に大きな貢献ができると確信する。

 仮に函館~青森間で比較すると、自動車で移動した場合、所要時間が現状の5時間から2時間30分に短縮(50%)され、大型車の物流コストは、現状のフェリーを使用した料金5万2160円から2万8200円となり約46%削減される。

 また、物流の増加、交流人口・消費増加(観光)により、北海道、青森にもたらされる経済効果は、総額878億円/年と試算される。このうち、北海道から移出される農畜産物の物流増加による経済効果が、340億円/年(約60万㌧)あるとみている。

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 さらに、現青函トンネルの新幹線専用化により、本来の高速走行が可能となり利用率の向上が図られるとともに、車両の自動化による無人運転の実現により、長距離ドライバー不足が解消する。

 今日の自動車技術の進化と、青函トンネル建設からの土木技術のめざましい進歩が、本プロジェクトを技術的に実現に大きく近づけたと考える。

 JAPICでは、2020年11月、第二青函トンネルシンポジウムを北海道経済連合会の主催、JAPIC共催で開催し、12月9日には、今回のプロジェクトを赤羽一嘉国土交通相に手交提言した。これらを踏まえ、本プロジェクトが日本全体に必要なプロジェクトであることや、地元の盛り上がり、コンセンサス醸成の必要性を改めて認識した。今後も国、北海道、青森県と連携を強め、津軽海峡トンネルの早期実現に向け、プロジェクトの深化に努めていく。


〈日本プロジェクト産業協議会 JAPIC(ジャピック)〉立国の根幹にかかわる事項の研究や、政府など関係機関に働きかけを行い、国家的なさまざまな課題解決に寄与し、日本の明るい未来を創生することをビジョンとする。1979年、任意団体として設立、2013年に一般社団法人に移行。会員は37業種、約230の企業、地方自治体、NPOなどで構成。

 神尾 哲也(かみお・てつや)JAPIC国土・未来プロジェクト研究会委員、戸田建設常務執行役員

(Kyodo Weekly・政経週報 2021年8月16日号掲載)


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