深夜に「海を学ぶ」 危機感募らせたシェフたち 佐々木ひろこ フードジャーナリスト
2021.08.16
海の未来を考える約30人(7月現在)のシェフチーム、Chefs for the Blue/シェフスフォーザブルーが産声をあげたのは2017年5月のことだ。
立ち上げ当時は単なる「シェフの水産勉強会」。水産現場などの取材を通じて、私が過剰漁獲を大きな理由に日本の海から魚が激減している状況を知り、仕事仲間のシェフたちに「海について学ぼう」ともちかけたのがきっかけだった。
レストラン取材が多いフードジャーナリストという仕事柄、毎日のように料理人と話す機会がある私は、オーガニック野菜に平飼い鶏、放牧牛などにこだわり、日々志ある生産者をサポートしたり、フードロス削減のための努力を重ねていたトップシェフたちが、なぜか誰1人として海の危機を知らないというアンバランスさを感じていた。
魚介類の「おいしさ」や「希少性」などに関してならいくらでも語れるのに、当時の彼らの中に「海の持続性」という評価軸はほぼなかったと言っていい。
勉強会の会場は、東京・渋谷にあるミシュラン一つ星のフレンチレストラン「シンシア」に、時間は平日の深夜零時から早朝2時半までと設定した。なぜそんな遅い時間に、とよくびっくりされるのだけれど、レストランの定休日は店によって違うため、皆が一同に集まれるのは営業後の深夜に限られる。
(勉強会の様子=2017年6月、筆者撮影)
料理人はその事情を理解していたこともあって、深夜開催に関しては全く異論が出ず、定員の30人は東京のトップシェフたちだけで募集開始日に埋まってしまった。
1カ月に一度ほどのペースで開催を続けた勉強会には、ゲストスピーカーとして東京海洋大学の研究者やコンサルタント、漁業者や流通業者などに順に登壇いただき、日本の海の現在位置や水産業の持続性について、また海外の先行事例などについて幅広く学んだ。
そうして日を重ね、次第に知識が積み上がるにつれて、目に見えてシェフたちの顔色が青くなってきた。このままでは、自分たちが料理できる魚が将来あるかどうかわからない、と危機感を募らせたのだろう。
何ができるのか、当時は全くわからなかったけれど、何か動いていなければいてもたってもいられない。私たちのチームが、内向きの「水産勉強会」から外に向かって行動する「Chefs for the Blue」(海のために行動するシェフ)として、形を変えた瞬間だった。
(Kyodo Weekly・政経週報 2021年8月2日号掲載)
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