担い手を災害から守れ 異常気象で農業地帯が被害 小視曽四郎 農政ジャーナリスト
2021.08.09
新型コロナ禍を受けた「持続可能な食料供給システム」に焦点が当たる一方で、その担い手たる農業者の安全にもより留意すべきだとの声が上がっている。(写真はイメージ)
発展途上国並みに被災規模が大きいとされる日本。21世紀に入ってからの約20年間は危険度が急激に高まっており「農家を災害から守ることも持続可能性を踏まえた重要な食料安全保障では」とされている。
国連防災機関(UNDRR)が昨年10月に公表した「災害による人的損失2000~2019」によると、2000年から20年間で世界の重大な自然災害(死者10人以上、被災者100人以上)は7348件で、123万人が死亡、42億人が被災、世界経済に与えた損失は2兆9700億㌦(326兆7000億円)だったという。
1980年~99年までの20年間と比べると、重大災害、死者、損失額もいずれも増えており、被害規模が拡大している。
最大の理由は「異常気象による気象災害が増えたため」だ。異常な気象災害は1980~99年は3656件、2000~19年は6681件で、1.8倍だった。
実際、日本でもこの数年、かつてない記録破りの豪雨や、強力な勢力の台風が発生し、甚大な被害が多発している。
昨年の「7月豪雨」では熊本など九州の広い地域が被災。19年10月の「令和元年東日本台風(台風19号)」では福島県阿武隈川流域、宮城県丸森町などが被害を受けた。
18年の「7月豪雨」では、死者263人、行方不明者8人、農林水産被害3409億円に上った。ドイツの環境NGOジャーマンウオッチが、不名誉にも「世界で最も気象災害の影響が大きかった国」(損害額358億3900万㌦、約4兆円)に日本を選んだ年になった。日本の災害死者数は、インフラが比較的未整備の途上国並みで「常に世界の10位以内」との指摘もあった。
こうした災害の特徴として、農業地帯が大きな被害を受けることが多く、「集落のリーダーだった人が亡くなったり、あまりの被害の大きさに落胆し、離農しようとしたりする家も珍しくない」(農民団体)という。
時に集落自体の存続問題になることもある。農家の被災はただでさえ減少が止まらない担い手不足を加速し、エッセンシャルワーカーながら危険なイメージをさらに高めかねない。
今秋に開催の国連食料システムサミットは「持続可能な食料供給システムの構築」などが趣旨で、食料安保とはいえ従来の「フードセキュリティー」だけが狙いではないようだ。
だが、食料安保の基本は、自国でどれだけ自力で食料生産ができるかだ。安易に輸入に頼れる時代ではない。政府は自給率向上など足元の食料安保にしっかり留意すべきだろう。
(Kyodo Weekly・政経週報 2021年7月26日号掲載)
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