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コロナ禍で流通量は微減  20年度の食品添加物市場  熊野美緒 矢野経済研究所フードサイエンスユニット研究員

2021.08.04

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コロナ禍で流通量は微減  20年度の食品添加物市場  熊野美緒 矢野経済研究所フードサイエンスユニット研究員の写真

 矢野経済研究所の調べでは、2020年度の食品添加物の市場規模(売上高)は、8043億2700万円であった。売上高は甘味料、食品香料、品質改良剤、増粘安定剤、食品色素、乳化剤、酸味料、酵素、栄養強化剤、保存料・日持ち向上剤、酸化防止剤ーについて合計している。(写真はイメージ)

 市場規模は前年度比で微増となったとみられる。多糖類の増粘安定剤としてアイスクリームなどに使われるローカストビーンガムや、トウモロコシなどの価格高騰が要因である。

 トウモロコシを原料とする食品添加物は多く、トウモロコシ価格の上昇はでんぷんやクエン酸、でんぷんを原料とする甘味料の糖アルコールなどの値上げをもたらしている。

家庭用食品向けは好調


 コロナ禍が食品添加物市場に与えている影響をみると、種類により明暗が分かれている。需要が落ち込んでいるのは、①飲料向け②業務用食品向け③土産用の菓子や水産加工品向けーなどで、外出自粛や飲食店の時短営業・営業自粛、観光産業の不調によって販売が減少している。

 一方で巣ごもり需要から、家庭用の冷凍食品、麺類、粉類向けなどの食品添加物の需要は高まった。好調の背景には簡便調理品を好む考えや、備蓄志向もあるとみられる。

 こうした結果として、食品添加物の20年度の流通量は、甘味料、食品香料、乳化剤、保存料・日持ち向上剤など多くの種類で減少し、全体では前年度比で微減で推移したとみられる。

 原材料価格が上がっている状況で、原料を持続的に安定調達することは重要性が増している。食品添加物メーカーは、調達のしやすい原料への切り替え、効率的に生産するための設備投資や生産地の確保、ユーザーに対する合成原料への切り替えの勧奨など、さまざまな取り組みを行っている。

 今後需要が好調に推移すると予測されるのは、「健康」「高齢者向け」「食品ロスの削減」「プラントベースフード」(植物由来の原料から作られた食品)といったキーワードに関連する食品向けの添加物だ。

 消費者の健康志向は高まっていたが、コロナ禍により免疫向上を中心に、さらにそういった傾向が強まっている。健康や美容に良いとされるタンパク質や、腸内環境の改善が期待できる食物繊維などの素材は好調となっており、食品で食物繊維含有などを訴求した商品の新規投入が活発にみられる。そういった食品メーカー向けに食品添加物メーカーも、栄養強化剤だけでなくさまざま素材で食物繊維含有をうたったものを投入する動きがみられる。

風味改善需要は伸長へ


 高齢化が進んでいることから、高齢者向け食品の需要は高まると考えられる。高齢者向けの栄養剤・流動食は、栄養を強化する際に「嫌な味」が発生しがちだが、これをマスキングする(覆い隠す)用途の甘味料や味を改良する乳化剤は、今後伸長すると予測する。

 国連が定める持続可能な開発目標(SDGs)の達成という点から、食品ロスを減らす動きが食品メーカーでは高まっている。このため日持ち向上剤、日持ち向上用途の甘味料や、食品を製造する際の歩留まりを高めるための乳化剤などの素材も、今後需要が高まるとみられる。

 大豆など植物由来の素材で作る植物肉は、19年の市場規模が150億~160億円に達し、2022年には250億円になるとみられている。将来的に動物由来の肉では世界の食肉需要を満たせないといった懸念や環境問題から、拡大傾向にある市場で、国内の小売店の取り扱いが増え、飲食店でも植物肉を使用したメニューがみられるようになってきた。20年度も植物肉市場の伸びから、原料であるタンパク質は販売が好調であったが、今後は植物肉の味のマスキングや改善が期待できる甘味料や、品質改良剤の需要が伸びていくとみられる。

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