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人口10万人という圏域  「地域生活圏」の規模を考える  沼尾波子 東洋大学教授

2021.08.02

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 日ごろ、ビジネスや生活を通じて自分が行動する範囲は、どの程度の広がりを持っているだろうか。また、感染症拡大はその範囲をどのように変化させたのだろうか。今回はこうした圏域とその人口規模について最近の議論を紹介する。

 今年6月、国土審議会計画推進部会国土の長期展望専門委員会は最終とりまとめで、「地域生活圏」の維持・強化を通じた分散型国土の構築を掲げた。

 これからの時代において大都市と地方の双方の強みを生かした分散型国土構築の必要性をうたう。その中で「地域生活圏」の維持強化が重要であるとの指摘がなされた。

 「地域生活圏」とは、通勤・通学をはじめ、多くの住民の普段の行動が完結するような日常生活の基盤となる圏域である。

 いわば、日常の都市的機能を担い、救命救急を担う医療機関や高等教育機関、地域金融機関、衣食住にまつわる総合的な買い物サービスの機能などを有する人口10万人程度、時間距離で1時間程度の圏域と定義される。(人口が10万人を下回っても一定の機能が集約している場合も含まれる)

 近年、限られた人材や財源などを効率的に配分し、地域経済発展を考えるにあたり、都市的機能をフルセットで担い、それを維持するには、人口30万人前後、時間距離で1時間前後の圏域を単位とする中核的都市を拠点とする考え方が採られてきた。

 中核市の指定要件は、制度創設時では人口30万人、今日でも20万人であり、連携中枢都市圏や定住自立圏を考える上でも「中心市」の規模は20万人が目安であった。

 それに対し、この人口10万人の圏域は、より小規模な都市の社会経済圏域を考えるものである。

 理由の一つにデジタル化がある。オンライン診療や教育などが充実すれば、リアルにフルセットでの機能をそろえずとも、利便性を確保した生活環境を整えることが可能となる。

 また、デジタル技術の暮らしへの実装を考えるとき、行動データを集積するには、人口10万人程度の規模が取り組みやすいとの指摘もある。

 持続可能な社会経済の構築という視点も欠かせない。人口10万人という、ある程度顔の見える圏域において、経済循環やエネルギー循環、情報共有などを実現できるような構造変化が求められているとも言える。

 デジタル化を通じた分散立地の可能性、多様な働き方や暮らしの実現、脱炭素社会の構築に向けた、再生可能エネルギーの利用。超高齢社会の到来の中で、地域包括ケアシステムの構築と専門家のネットワークづくり。空き家や農地、山林などの保全と管理など、地域のことを決めて運営するにあたり、情報データを肌感覚で読み解き、課題解決を図る上での「適正」な社会や経済規模は、もう少し小規模なのではないか、という問題提起は興味深い。

 各地でスマートシティ構築の取り組みも進むだろう。今後、参加型の地域づくりを考える上でも、10万人という規模は一つのメルクマール(指標)になりそうだ。

(Kyodo Weekly・政経週報 2021年7月19日号掲載)

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