コロナ禍で代替肉普及進む 総菜、冷凍食品も 廣瀬愛 矢野経済研究所フードサイエンスユニット研究員
2021.07.15
2020年初頭から世界的に拡大した新型コロナウイルス感染症は、消費者の志向にも影響を及ぼした。健康への意識や食への関心が高まったことで、ヘルシーなイメージが強い「代替肉」への注目が加速している。(写真はイメージ)
従来の畜肉由来ではない代替肉は、大きく「植物由来肉」と「培養肉」に分けられる。植物由来肉は豆類や野菜などの原材料からタンパク質を抽出し、加熱や冷却、加圧などを行うことにより、肉様の食感に加工した食品を指す。
培養肉は牛などの動物から採取した細胞を培養して生成される食品を指し、研究開発が進められている。
持続可能性高い
代替肉は従来の畜産よりも、生産時の水の使用量や温室効果ガスの排出量を抑制するため、持続可能性が高いとされている。その市場は世界の人口増加に伴う食糧不足、健康志向の高まり、食の多様化などを背景に拡大している。
植物を原材料とした植物由来肉の市場は、世界的には欧米が先行している。市場が拡大するとともに、大手食肉企業の代替肉ベンチャーへの投資、代替肉企業の買収など、活発な動きがみられる。
加えて、2020年初頭からのコロナ禍の影響で、米国や欧州の食肉加工場でクラスター(感染者集団)が発生し、肉の流通が一時的に不安定となった。供給不安が発生し、代替肉需要が高まったことから、普及の追い風となったとみられる。
日本国内では大豆ミートなどをはじめとする、植物由来の代替肉製品が次々と発売されている。大手コンビニでも、大豆ミートなど植物由来の代替肉を用いた総菜商品が多数販売されており、消費者が目にする機会が増加している。
増える新商品
大手食肉各社はミートボール、ソーセージ、ハムなどの製品を次々と販売しており、ナゲットや唐揚げ、即食タイプのサラダチキンなど、多様なラインナップが展開されている。今後も食肉企業はこうした代替肉の新商品に継続して取り組み、新たなニーズを開拓していく方向とみられる。
調理用素材としては、2021年3月、イオンとセブン&アイホールディングスが精肉売り場での代替肉ミンチの販売を開始した。続いて4月には、ライフコーポレーションも首都圏のライフ店舗の精肉コーナーで、チルド商品の展開を開始した。
冷凍タイプでは調理用素材の大豆ミートや、そら豆ミートが販売されているほか、ニチレイから「大豆ミートのハンバーグ」、米久から「AIRMEAT(エアミート)」シリーズなど、家庭用の供給も増えている。
スーパーのデリカコーナーでは、大豆ミートを使用した総菜が販売されはじめており、需要の裾野は広がっている。
ファストフードでも植物由来のパティ(パンで挟む中身)を使用したバーガーが、積極展開されている。バーガーキングでは2021年6月、「みんなでビーフ愛護計画」として、植物由来のパティを使用した「プラントベースバーガー」を300円引き(通常価格590円を290円)とする、お試し価格キャンペーンを7日間、実施した。
(バーガーキングのプレスリリースから)
曖昧な表示に課題
代替肉新商品の発売が活発に行われている一方で、消費者への分かりやすい表記が課題と考えられる。植物性素材であることを示す商品名やシリーズ名での展開が大々的に行われているが、完全植物性ではなく、原材料に畜肉由来や動物性由来の成分が含まれる場合がある。
「プラントベース(植物由来)フード」とされていても、卵や乳製品などが原材料に含まれる場合があり、消費者にとって語句の定義が曖昧となりやすい。「植物由来成分主体」であるのか、「完全植物由来」であるのかを分かりやすく表示することも必要と考えられる。もちろん従来の畜肉製品との誤認がないよう、表示を徹底することも重要である。
代替肉の主な原材料は、日本国内では多くが大豆であるが、大豆の価格が高騰していることが不安要素である。米国の大豆の生産が伸び悩み、需要がひっ迫していることを受け、不二製油、昭和産業、日清オイリオグループは、7月1日出荷分からの大豆たん白製品の値上げを、相次いで発表した。
好調に拡大している代替肉市場で、こうした値上げによる今後の価格への影響が懸念される。海外では代替肉の原材料としてエンドウ豆など豆類や菌類(マイコプロテインなど)なども使用される。日本でも「小麦グルテン」や「おからこんにゃく」などの素材を用いた代替肉商品が発売されている。
矢野経済研究所の調べでは、2020年の代替肉の世界市場規模(植物由来肉・培養肉計)はメーカー出荷金額ベースで2572億6300万円となったが、2030年には1兆8723億2000万円に拡大すると予測する。新素材の開発も含め、代替肉市場の伸長が期待される。
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