試してほしい「鬼おろし」 料理道具にこだわる タカコナカムラ ホールフード協会代表理事
2021.07.08
若い人に「何がないと料理できない?」と尋ねたら「ピーラー(皮むき器)とキッチンばさみ」という答えが戻りました。
私がおろし器を使うのを見て「まだ『すりおろす』ことをやっているんですか?おろし器はもっていないです」と言いました。
ニンニク、生姜、ワサビはチューブから使う。刻むのも、混ぜるのもブレンダー。刺身はキッチンばさみで切る、という世代なのかもしれませんね。
私が道具好きであることは間違いない。鍋に始まり、最近では調理家電にも手を出すようになってきました。今回は調理道具のお話です。
食べ応え変える「おろし器」
私がこだわっている道具に「おろし器」があります。おろし器は大きく、金属製、セラミック製、木製に分けられ、おろす素材によって使い分けます。
刃の形状によっては、食材の仕上がりが異なります。刃の材質でも仕上がりが違い、刃が大きいほど、ザクザクとした食べ応えが出ます。
生ワサビはサメの肌ですりおろすことがお勧め。サメのザラザラした皮ですると、ワラビの細胞が破壊され、生ワサビ本来の香りと辛味が生まれます。
なくてはならないと思うのが「鬼おろし」です。鬼おろし(写真下)は竹で作られたおろし器で、普通のおろし金よりも刃が粗くギザギザが大きい。これが鬼の歯のように見えることから、その名が付いたそうです。
鬼の歯でおろすことで、摩擦熱が出ずにビタミンや酵素の劣化が最小限に抑えられ、かつ食物繊維を壊さずにおろすため、水分が出にくい。つまり栄養成分の流出を限りなく抑えてくれるという、素晴らしき日本の調理道具なのです。
栃木県の郷土料理「しもつかれ」や、各地のぶっかけうどんやそばの大根おろしは、鬼おろしでないと成り立たないほど、和食文化を背負っている道具です。大根おろし以外にも、ニンジンやリンゴ、長芋でぜひ、試していただきたい。いつもの食材がうんとおいしくなります。
食材をおろす工程で必要となるのが「水切り」。水切り機能があるものが近年は人気が高く、水切りネットが付いているモデルが便利です。
もうひとつ手放せないのが、米国製の「マイクロプレイン」。木工やすりメーカーだった米国の会社が、独自の技術で開発した質の高い万能おろし金です。
鋭い刃はハード系チーズをはじめ、チョコレートやナッツまでさまざま食材を、力を入れずに簡単におろすことができます。人の力が余計に加わらないため、仕上がりに苦味やえぐみが出ないのです。
特にレモンやかんきつ類の皮をおろす場合、柔らかい果肉がつぶれたり、汁が出てしまったりせず、皮だけを滑るように細かくすりおろすことができます。すりおろした食材はどれもきめが細かく、ふんわりと仕上がります。
私が一番大切にしているおろし器は、おろし金がセラミック、受け皿がヒノキでできています(写真上)。キッチンに置くだけで、実に美しい。調理道具選びで機能性は重要ですが、デザインも大切です。美しいと飾りたくなり、見えるところに置く。目に入ると、つい使いたくなります。こうして使用頻度が上がるのです。
いい道具から絶品料理
私は調理道具のコレクターではありませんが、気が付くとあれこれたまってしまいました。道具に凝る、という方がいらっしゃいます。調味料も気に入ったものは、値段に関係なく買い続けるタイプ。食事としての料理ということより、何かを楽しんだり、極めようとしたりすることに、ポイントを見出すようです。
いい道具で作る料理は、絶品になります。素材が逸品でも、道具が酷ければ台無しになることを忘れないでほしいのです。調理道具は料理とともに普及し、愛されるものです。
昭和の後半ぐらいから、時短、手抜きの手段として、道具が開発されているような気もしています。和食文化を道具とともに、大切に次の世代へつないでいきたいものですね。
鬼おろしを使った「鬼おろし丼」を紹介します。
炊きたてご飯に、鬼おろしでおろした大根おろしと、卵黄、大葉を乗せます。しょうゆをかけていただきます。食欲のない朝ご飯にお勧めです。
〈材料〉
・炊きたてご飯 1膳
・焼豚 適量
・卵黄 1個分
・大葉 適量
・しょうゆ 適量
文、写真は料理家のタカコナカムラさん。安全な食と暮らしと農業、環境を「まるごと=whole(ホール)」考えて活動する一般社団法人「ホールフード協会」の代表理事です。
最新記事
-
お墓、どうされますか? 藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員 ...
出生数減少が止まりません。2015年には100万人以上あった出生数が、7年後の...
-
国産FSC認証広葉樹材を販売 堀内ウッドクラフト
日本森林管理協議会(東京都世田谷区、FSCジャパン)は、木工品製造販売の堀内ウ...
-
ウクライナ支援で一致 週間ニュースダイジェスト(4月16日~22日)
先進7カ国(G7)農相会合が宮崎市で、2日間の日程で開幕した(4月22日)。ウ...
-
「地域創生」五感で学ぶ 東京農大「食と農」の博物館が企画展
東京農業大学(江口文陽学長)の「食と農」の博物館(東京都世田谷区)は21日、企...
-
健康食品市場9000億円超へ 23年度、ストレス・睡眠・肥満対策で堅...
矢野経済研究所がこのほど発刊した市場調査資料「2023年版 健康食品の市場実態...
-
幸福は口福から 安武郁子 食育実践ジャーナリスト 連載「口福の源」
人間の最後まで残る欲の一つである「食欲」(※)。おいしさを味わう幸せ「口福」。...
-
漁師さんが「かわいい」と気付いた日 中川めぐみ ウオー代表取締役 ...
水産の世界は物理的な距離よりも、精神的な距離が遠い。水産業界以外の方と、こんな...
-
花粉症対策でスギの伐採加速 週間ニュースダイジェスト(4月9日~15...
政府は首相官邸で花粉症対策を議論する初の関係閣僚会議を開き、岸田文雄首相は6月...
-
リニューアル、地方進出活発に 動き出した自治体アンテナショップ 畠...
最近、自治体のアンテナショップの移転、リニューアル、新規出店が全国的に活発だ。...
-
生産拡大と持続可能性の両立を議論へ 週間ニュースダイジェスト(4月2...
気候変動やロシアのウクライナ侵攻で食料の安定供給が世界的な課題となる中、先進7...