健康志向の食品輸出が伸びる ニュージーランド貿易経済庁に聞く NNAオーストラリア
2021.07.28
ニュージーランドが日本との貿易拡大を目指している。アーダン首相やオコナー貿易相も参加した、日本向けのバーチャル・トレード・ミッションを6月に開催。これを皮切りに、同国産の農産物に関する日本向けウェビナーを毎週のように実施している。ニュージーランドのビジネス界はなぜ日本市場を選び、日本市場をどう見て、どう輸出を拡大させるのか。貿易経済促進庁(NZTE)トレードコミッショナー(在日大使館商務参事官)として、通商関係強化を担うクレイグ・ペティグルー氏に聞いた。
ー日本との貿易の現状は?
日本との貿易総額は年間70億ニュージーランドドル(1NZドル=約77円)規模に達しており、ニュージーランドにとって4番目に大きい貿易相手国です。日本への輸出品は「Good For You(健康によい食品)」のカテゴリーに含まれる食品の成長が目立ち、NZTEの最近のデータでは、キウイ(前年比20%増)やリンゴ(約2倍)、蜂蜜(96%増)が大きく増加しています。
食肉はコロナ禍を受けフードサービス業が停滞しチルド(冷蔵)肉は減りましたが、小売り用の冷凍肉が増え、全体では10%増加しています。
直接日本に入る魚介類はコロナ禍で減少(25%減)しましたが、日本水産などが魚介類を買ってベトナムや中国に送り、加工して日本に入れるケースも多いです。
キウイに次ぎ2番目に日本向け輸出が多い乳製品は、1%増にとどまりましたが、プロテインを含むヨーグルトなど、付加価値の高い製品に注目が集まっています。
林業では住友林業や王子製紙などと古くから良好な関係を築いていますが、去年はサプライチェーンの不安定さなどがあり、木材輸出は減りました(18%減)。ただ長い取引関係の中では必然的に波がありますので心配はしていません。
(クレイグ・ペティグルー氏=NZTE提供、以下同)
ー青果をはじめ農産物輸出が増えている理由は?
日本市場に新たに投入された黄色のゴールド・キウイは、日本を含めたアジアの消費者の嗜好(しこう)に合わせて改良されたものです。また、キウイ・ブラザーズというCMキャラクターを含め、マーケティング戦略は日本の消費者のセンスに合致するように練られています。つまり輸出の増加は、良い商品とその裏にあるストーリーが組み合わさった相乗効果と言えるでしょう。
リンゴ(上の写真右)は約8年前からマーケティングを仕掛けています。1~2種類の輸出から始まって、今では10種類以上を輸出するまでに成長しました。日本の消費者が、徐々にニュージーランドのリンゴの味や大きさを認知してきたことで、需要も拡大したという流れだと思います。
蜂蜜は「マヌカハニー」(上の写真左)に注目が集まっています。マヌカという植物を蜜源とする蜂蜜ですが、コロナ禍で日本の消費者の健康への意識が高まったことで、抗菌作用が強いマヌカハニーに需要が集まりました。去年の輸出量は前年の倍になりましたが、蜂蜜といえばニュージーランドというイメージができつつあり、良いことだと思っています。
ー輸出先としての日本市場をどう見ますか?
NZTEの調べでは、日本企業の収益は、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)が発生する前の2020年に過去最高水準に達しています。日本の企業はコロナ禍でも、節約の方法を熟知しています。こうしたことは、日本の企業が投資や新規プロジェクトに投下する資金を豊富に持っているということを意味しているのです。ニュージーランド企業にとって、安定している日本の企業は魅力あるビジネスパートナーだと考えています。
ーニュージーランド製品は日本の消費者に受け入れられますか?
日本の消費者は新型コロナの影響で、以前より生鮮食品にお金をより使う傾向(3%増)がみえます。また、不確実性を好まない性向から、貯金も増えています(18%増)。貯金しておいしい物を食べようという動きですが、この傾向にニュージーランドの品質の高い農産物は合致するだろうと考えています。
私たちの調査で判明したのは、日本の消費者が食品を購入する際の基準は、一番が「健康的か」(30%)です。次に「味が良いか」(24%)で3番目に「新鮮か」(22%)と続きます。オーストラリアの消費者が購入を決める条件は「価格」(23%)が1番で、次が「流行」(14%)でした。
つまり日本の消費者には、ニュージーランドのキウイや蜂蜜は「健康的な食品」として受け入れられているということになりますね。今後日本でヒットする農産物を作る時や売る時、ストーリーを作る時に、「健康的な」というコンセプトから始めることが必要だと思います。
今年4月にNZTEと政府観光局が実施した合同調査では、日本の消費者の69%は機会があればニュージーランド産食品を「購入したい」と答え、「購入したくない」はわずか3%でした。20年9月に65%だった「購入したい」という層が、コロナ禍の深刻化に伴い増加したことも分かりました。日本人がニュージーランドに対して、国として、あるいは食品を生産する場所として、とても良いイメージを持っているということが明らかになっています。
ー日本に進出する企業に必要なことは?
ニュージーランドでは現在、200社の企業が日本に商品を輸出し、うち61社が日本をターゲット市場としてみています。さらに30社が日本支社を持っています。彼らの現在の課題は、コロナ禍によるサプライチェーンの遅延と、コミュニケーションの問題です。先ほど示したように両国は不確実性の受容の違いがあります。
特に日本でのビジネスは、コミュニケーションにより信頼関係を構築し、お互いをよく知る間柄になることが重要だと強調しています。長期的な計画も必要ですね。ただ、渡航ができない現在のコロナ下では、デジタルを使った交渉は日本でも通常のビジネス行為として受け入れられていますね。
日本の小売・外食業界の市場規模は6000億NZドルと巨大で、電子商取引(EC)も拡大しています。NZTEは今年3月、楽天とタイアップして「キアオラ・ニュージーランド」というネットショップを作りました。ニュージーランドの40企業が600品目を出品していますが、日本のオンライン市場での国の認知度を上げることと、対日ビジネス能力を引き上げる教育の機会を企業に提供することを目的としています。
楽天がアジア以外の国の政府とタイアップするのは初めてだそうですが、「キアオラ・ニュージーランド」を経由した場合の売上高は、通常より40%高いというデータが出ています。公式サイトとして信頼された結果だと考えています。
NZTEは「Made For Japan」というキーワードを掲げています。これは日本にフォーカスした商品・サービスを強化するということ、つまり日本の消費者のニーズを理解した上で信頼されているニュージーランドで商品を作り、日本に輸出するというコンセプトです。このことが日本への輸出を成功させるために重要と考えています。パッケージングやマーケティングを含めたストーリーを日本向けに作ることが大切です。
ーニュージーランドのアグリテックは?
ニュージーランドは農業国でもありますがアグリテック(農業テクノロジー)も盛んです。農場が小さいとか高齢化といった日本の農業の課題に対し、ノウハウを提供できるチャンスも多いと思います。
協業の一例では農業ロボット企業ロボティクス・プラスが、ヤマハ発動機から大きな出資を受けパートナーシップを結んでいます。こういった例が徐々に増えてきていますので、NZTEとしては、ウェビナーやビジネスマッチングを推進し、さらなる展開を期待しています。
再生可能エネルギーに関しては、日本と地形が似ていることから、地熱発電の技術を日本に移転する動きもあります。日本ではここ50~60年間に停滞した地熱発電ですが、ニュージーランドは開発を継続していました。周囲の温泉などに影響を及ぼさない地熱発電のノウハウなどを提供することが可能です。水素を巡るエネルギー開発も注目度が上がっています。
再生可能エネルギーについては大林組や三井物産などと話をしています。
ー日本市場でビジネスを進めるためのポイントは?
先に日本に向け実施したバーチャル・トレード・ミッションは、政府として初めて実施したもので、両国の関係を深めることが今後もますます重要になると思います。
NZTEは日本市場でビジネスを進めるに当たり、3つのCを重要視しています。日本の文化(Culture)を理解した上で、つながり(Connection)を大事にし、責任をもって関わっていく(Commitment)。そうすることで長期的な信頼関係が構築され、両国にウィンウィンの結果をもたらすと考えています。
〈クレイグ・ペティグルー(Craig Pettigrew)氏〉 ニュージーランド貿易経済促進庁(NZTE)トレードコミッショナー・在日ニュージーランド大使館商務参事官。2018年8月から現職。東京を拠点に両国間の通商関係強化に従事。前職では公的機関や民間企業で東アジア地域でのビジネス拡大に焦点を当てた上級管理職を歴任。日本ニュージーランド経済委員会の執行委員でもある。
(オセアニア農業専門誌ウェルス(Wealth) 7月23日号掲載)
【ウェルス(Wealth)】 NNAオーストラリアが発行する週刊のオセアニア農業専門誌です。
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