シェフの"2本の手" 資源守り食文化を未来へ 佐々木ひろこ フードジャーナリスト
2021.07.05
2017年5月に活動をスタートした私たちChefs for the Blueは、東京のトップシェフ約30人と事務局で編成したチームだ。日本の水産資源を守り、私たちの食文化を未来につなぐことを目標に掲げ、さまざまなプロジェクトに関わって5年目になる。
私がシェフたちと一緒に啓発活動をしていると話すと、初めてお目にかかる方の中には「どうしてシェフたちと?」と不思議そうな表情をされる方が多い。それに対して私はいつも、「彼らは2本の手を持つ、社会でも稀有な存在だからです」と答えている。
料理人が持つ"2本の手"のうち、1本目は生産者とつなぐ手だ。持続可能な取り組みをすすめる漁業者から素材を仕入れ、事業を応援することができるのはもちろん、「サステナブル(持続可能)な魚が欲しい」というメッセージを伝えることで、時には漁業者の生産方針を変えることもある。
もう1本は、消費者つまりお客と結ぶ手だ。レストランを訪れたお客に、サービスマンが「今日はこのサステナブルな取り組みで生まれた魚を使いました」とさりげなく伝えたり、コースメニューを印刷したカードに記載したり、シェフが生産者について語ったりと、押し付けがましくない形でさまざまな気づきを与えることができる。さらに現在のチームメンバーはみな知名度が高く、各種メディア露出も頻繁で影響力を持っている。
(Chefs for the Blueのメンバーレストラン、「シンシア」の2020年・晩夏メニューの一例)
このように生産者と消費者を結ぶコネクターとして、双方に向かって情報を伝えるスピーカーとして、社会に対するインフルエンサーとして料理人は大きな役割を果たす存在なのだ。
実は世界を見渡してみると、食の社会課題に取り組んできた有名シェフは少なくない。
古くは1971年にオーガニックや地産地消を掲げて米カリフォルニア州バークレーにレストラン「シェ・パニース」をオープンさせたアリス・ウォータース氏をはじめ、食の未来のためにペルー・アンデスの原生種植物のシードバンクを設立したペルーのレストラン「セントラル」のビルヒリオ・マルティネス氏ら枚挙にいとまがない。
料理の腕はもちろん職人としての純粋さ、生産者へのリスペクトの高さなど、世界でも有数のポテンシャルを持つ日本のシェフたちも、きっかけさえあれば動き始めるはずだ。そう思ってスタートさせ、後に大きく育ったChefs for the Blueのさまざまな取り組みを、今後数回にわたってご紹介していこうと思う。
(KyodoWeekly・政経週報 2021年6月21号掲載)
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