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次世代型の「半農半X」  データ活用で専門性向上  前田佳栄 日本総合研究所創発戦略センターコンサルタント

2021.06.14

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次世代型の「半農半X」  データ活用で専門性向上  前田佳栄 日本総合研究所創発戦略センターコンサルタントの写真

 新型コロナウイルスの流行に伴い、仕事や生活のスタイルを見直す人が増えている。そうした中で注目を集めているのが「半農半X(エックス)」という生き方である。(写真はイメージ)

 これは北九州市立大地域共生教育センター特任教員の塩見直紀氏が1990年代半ばごろから提唱してきた概念で、「持続可能な農ある小さな暮らしをしつつ、天の才(個性や能力、特技など)を社会のために生かし、天職(X)を行う生き方、暮らし方」のことをいう。

 リモートワークが推奨されたことで、都会を離れて郊外や農村で生活を始めた人は少なくない。自然に触れるのが好きな人や、作物を育てるのが好きな人にとっては、週末は農作業という暮らしは豊かさが感じられ満足度が高い。

 また、休業要請などの影響で、雇用の維持が難しくなった観光業や飲食業の人材を、農業に派遣する取り組みが新たに始まった。農業の人手不足の解決策の一つとして、こうした他業種との人材交流には大きな期待が寄せられている。

 都市住民の農業への関わり方は農作業にとどまらない。これからの農業では、データ活用が重要な役割を担う。スマート農業の普及により、営農管理アプリケーションによる作業状況や経営の見える化、センサーや人工知能(AI)を使った作物の生育状況の見える化などが進んでいる。生産性向上を実現するためには、こうしたデータを分析し、改善点を見つけていくことが重要である。

 動画や写真を活用したSNSでの情報発信といった付加価値の向上策も広がってきた。一方で、1人の農業者が、農作業からデータ活用まで全てをこなすのは難しい。データ活用に関する専門性の高い人材が農業に携わりやすくする工夫も必要となる。

 そこで、ポイントとなるのが、データを活用した業務は農業現場から離れた場所でもできるという点だ。都市には、Iot(モノのインターネット)やAIなどの技術に詳しい人材、戦略やマーケティングといった経営に詳しい人材など、多種多様な専門性を持つ人材が多くいる。従来は農業に携わるには農村に暮らすことが必要であったが、データ活用の文脈であれば、都市で暮らしながら農業に携わるという「次世代型半農半X」が実現できる。

 例えば、AIの知見を生かして週末に副業やボランティアとして農業者から受け取ったデータを分析する、数十年かけて培ってきたマーケティングの知見を生かして、定年後に農業者に代わって戦略を立案するといった形がある。専門性の高い人材が農業で活躍できるようになることで、農業はますます魅力的な産業になる。

(KyodoWeekly・政経週報 2021年5月31日掲載)

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