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ヒロインの祖父、モデルは畠山重篤さん  森と海つなぐカキ養殖家  アグリラボ所長コラム

2021.06.10

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ヒロインの祖父、モデルは畠山重篤さん  森と海つなぐカキ養殖家  アグリラボ所長コラムの写真

(宮城県気仙沼市の舞根湾=2017年11月22日撮影)

 5月に始まったNHKの連続テレビ小説「おかえりモネ」から目が離せなくなった。新型コロナウイルスの感染予防対策で在宅勤務中の朝、たまたまスイッチを入れたテレビ画面に、見覚えのある牡蠣(カキ)養殖場や研究所が映し出されているではないか。

 ヒロインの永浦百音(愛称モネ)の祖父・龍己はカキの養殖業を営み、水産高校2年生の妹はカキの研究に没頭している。藤竜也演じる龍己のモデルは、カキ養殖家の畠山重篤さんだと確信した。「森は海の恋人」という名キャッチフレーズで森と海をつないできた人だ。4年前の記憶が蘇った。

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(室根山を指差すカキ養殖家の畠山重篤さん=17年11月22日撮影)


 秋にドイツで入手したばかりの少し珍しいフランケンワインを持参して宮城県気仙沼市の舞根湾を訪れると、畠山さんは自分で船を出して湾内を案内してくれた。東日本大震災でカキの養殖場は壊滅的な打撃を受けた。湾内から生物が消えてしまい「海は死んだ」と言われたが、既に養殖場は見事に再生されていた。

 畠山さんは「上流の森から運ばれる栄養分でプランクトンが育ち豊かな海が再生された。大災害があっても(海と山の)恋人関係に変わりはない」と笑いながら、巨大なカキやホタテを引き揚げて、白ワインに合わせてくれた。

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(プランクトンの栄養分フルボ酸鉄について説明する畠山さん=舞根森里海研究所、17年11月22日撮影)


 帰途、畠山さんが湾内から指差した室根山に登った。山頂から唐桑岬や大島を一望すると、確かに森と海と里は大川を介して不可分一体につながっていた。

 畠山さんの活動は、日本政策金融公庫の月刊誌AFCフォーラム」(2021年3月号)に、自身の言葉でコンパクトにまとめられている。また、地元紙・三陸新報によると、NPO法人「森は海の恋人」(気仙沼市)が、1989年から毎年開いている植樹祭は、今年も6月6日に岩手県一関市室根町の矢越山「ひこばえの森」で開かれた。大川の上流に豊かな森をつくるのが狙いだ。

 例年は全国から約1500人が参加するが、新型コロナウイルス感染防止のため、2年連続で関係者約30人だけの植樹となった。同NPO法人理事長の畠山さんは、苗木に添えるプレートに「おかえり舞根」と書いたという。

 朝ドラは、ヒロインのモネが天気予報士を目指す方向へ展開している。「余計なお世話かもしれないが、進路としては、素晴らしい環境と人々に恵まれた地元の林業か水産業で活躍した方がいいじゃないか」と、独り言をつぶやいている。(文・写真、共同通信アグリラボ所長 石井勇人)

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