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思い出を繕う「金継ぎ」  器に再び命を吹き込む  タカコナカムラ ホールフード協会代表理事

2021.06.03

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思い出を繕う「金継ぎ」  器に再び命を吹き込む  タカコナカムラ ホールフード協会代表理事の写真

 「金継ぎ」は壊れた器を漆によって接着し、金などの金属粉で装飾して仕上げる修復技法を指します。「金繕い」ともいわれています。コロナ禍で在宅時間が増え、始める人も増えています。

 歴史はかなり古く、縄文時代の出土品に漆で修理をしたものが発見されています。本格的には室町時代のお茶の文化から始まったとされています。壊れた器を修繕し、継ぎ目に金で装飾を加えて別の新しい絵画のように見て、茶人たちはそのわび、さびを楽しんできました。

 最近の話ですが、人気映画シリーズ「スター・ウォーズ」の「スカイウォーカーの夜明け」(2019年公開)で、主要キャラクターであるカイロ・レンが、壊れたマスクが修復されて登場するシーンは、J.J.エイブラムス監督が金継ぎからひらめいて、演出したのだそうです。

 このように金継ぎは、海外でも高い評価を受けており、密かなブームにもなっています。

 金継ぎを知ったのは20年近く前、東京・表参道で働いていた頃。お昼ごはんに近くの和定食のおいしいカフェに通っていて、器に金色の繕いがされているものが、よく出てきていました。

 大学時代を京都で過ごした私は金継ぎを見聞きはしていましたが、高級な器を修繕する手法と思っていたので、カジュアルなカフェでそのような器が使われていることに関心を持ちました。

 オーナーに聞くと、店で教室もやっているとのことで、私は通うようになりました。金継ぎされた器を使う店は、今風にいうと「エコなカフェ」かもしれませんが、それ以上に、モノを大切に、丁寧に作る店であることを静かに語っていると感じました。

 今では金継ぎは私の唯一の趣味になり、楽しむ時間は忙しい日常の中で「瞑想タイム」になっています。

漆を知る


 漆は優れた天然の防腐剤であり、接着剤でもあります。一般的なのは「漆もどき」の器で、日本でも漆のことを知らない人が多いのではないでしょうか。

 ウルシの木の樹皮に傷を付け、染み出てきた乳白色の樹液が漆です。1本のウルシの木から1シーズンで採れる漆の量は150㌘程度。茶碗1杯も取れないという大変貴重なものですから、漆器は高価になります。現在では日本で使う漆の90%以上が、中国から輸入されたものです。

 漆の塗膜は堅く、また非常に柔軟性もあります。酸、アルカリ、塩分、アルコールにも強く、また耐水性や断熱性、防腐性も高く、京都や奈良の寺院仏閣の調度品が今に残っているのは、漆のおかげなのです。

 漆のことを英語では「Japan」と呼ぶことがあります。中国の明の時代に欧州に多く輸出された陶磁器が、ボーン・チャイナなどの「China」と呼ばれたのと同様に、日本の漆器が欧州に広がり、愛情を込めてJapanと称されるようになったのです。

 本漆で修繕して金粉で仕上げる本格的な金継ぎは、漆の乾燥にも何日もかかるため、1日で完成することはありません。近年は「新うるし」といって、数時間で乾き材料費も安価な方法に人気があります。

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新たな命を吹き込む


 最近家庭で人気の食器は、お子様ランチスタイル、つまり1枚の皿に仕切りがあるタイプだそうです。皿を洗う手間が省けるから。しかも仕切りは3つが人気。4つ以上ではおかずの種類が増えてしまうから...。いい器を持つことに価値を求めていない人が多いと感じています。

 1年に1回程度ですが、東京・洗足池で金継ぎ教室を開いています。集客は決して良くありません。若い人は器にお金をかけることをしない。「金継ぎするほどいい器持っていないです」という方も少なくありません。

 高い器だから修繕するのではありません。ある受講生は、成人した息子さんの離乳食で使った器を持ち込みました。「こんなもの、捨ててしまおうと思ったのですが、あの頃を思い出すと胸がキュンとなり金継したいと思いました」。愛する器と思い出を繕うのです。

 割れた器、死んだ器を自分の手で蘇らせ、新たな命を吹き込む作業は、「もったいない」や「リサイクル」ということとは別のものだと思っています。買った日のこと、一緒に行った家族の笑顔、愛する人からのプレゼント、壊れたあの日のこと。それをもう一度、繕ってみませんか。


文、写真は料理家のタカコナカムラさん。安全な食と暮らしと農業、環境を「まるごと=whole(ホール)」考えて活動する一般社団法人「ホールフード協会」の代表理事です。

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