巣ごもりでペット市場拡大 消耗品の家庭内在庫増 泉尾尚紀 矢野経済研究所フードサイエンスユニット主任研究員
2021.05.14
矢野経済研究所の推計では、2020年度のペット関連市場(小売金額ベース、見込み)は、前年度比3.4%増の1兆6242億円となった。(写真はイメージ)
コロナ禍で在宅時間が長くなってペットと過ごす時間が増え、飼育者需要が増大したことが市場拡大の要因とみられる。
ペット関連市場はペットフードが全体の35%程度、トイレシートやシャンプー類、消臭剤といったペット用品が15%程度、生体と関連サービス(医療・介護、保険、葬送など)が計50%程度を占める。
給付金が購入のきっかけ?
20年以降の市場動向を振り返ると、20年6月ごろから生体販売が伸長し始めた。新型コロナウイルス感染対策の特別定額給付金の申請や支給が始まった時期とも重なり、これまでペットを飼いたいと思っていた人たちが、給付金をきっかけに生体を購入したケースが少なからずあったとみられている。
コロナ禍における生体販売は、ペットショップによっては前年同月比で2~3割増加しているという。しかしその一方で、大型商業施設やホームセンターは休業の影響が大きく、前年比横ばいから微減で推移した事業者もある。
全体としては生体販売は、21年に入っても好調に推移しているもようだ。ただ犬と猫の価格が上昇していることから、コロナ禍で新しい生活様式が定着し広がりを見せても、今後も新規のペット飼育者が伸長し続けるのは難しいと考えられる。
新型コロナウイルスの感染拡大がペット関連市場に与えた影響を、①家庭内在庫の確保②買い替え需要③新規飼育者による需要増④ペットとの時間が増えたことによる需要喚起、の4点について指摘したい。
「家庭内在庫の確保」としては、20年2月~3月ごろから、ペットシートや猫砂といった消耗品の家庭内在庫の需要が急拡大した。
一時的な買いだめで需要を先食いしただけではないかと考えられていたが、緊急事態宣言が明けた後も反動による落ち込みが現れず、飼育者が消耗品を家庭内在庫として持つ傾向が継続しているとみられる。
「買い替え需要」もペット用品の動きである。在宅勤務や巣ごもりの機会が増えたため、これまで夜に見ていたペット用品を昼の明るい時間帯に目にする機会が増え、汚れや傷が気になるようになり、買い替え需要が喚起されたとの見方がある。
「新規飼育者による需要増」としては、6月ごろからペットを飼い始めた時に必要となる首輪や食器、ハウスケージなどの需要が伸びたことが挙げられる。前述の通り、生体販売が伸長した時期とも一致している。
在宅時間伸びケア用品好調
「ペットとの時間が増えたことによる需要喚起」としては、ペットのケアに時間をかける飼い主が増加し、ボディーケア、オーラルケアの分野が拡大したことが挙げられる。
在宅時間が伸びておもちゃやブラシ、タオル、耳掃除用具の売り上げが増え、セルフトリミングの人気が上昇したことで、バリカンの販売も伸びたとみられる。
掃除関連用品やウェットティッシュ、消臭剤など、犬や猫を衛生的にケアしたり、生活環境を改善したりする商品も、在宅時間拡大で販売が伸長したと考えられている。
コロナ禍がペットフードに与えた影響といえる動向としては、スナック(おやつ)の販売が好調だったことが挙げられる。
新しい飼育習慣の啓発必要
以上の通り20年以降のペット関連市場は全体的としては好調だったが、海外や国内の旅行機会が大幅に減少し、ペットホテルの需要は大きく縮小した。
人との接触機会を減らすためにトリミングを自分で行うなど、一部のペット関連サービスで苦戦を強いられている。トリミングが苦戦した半面、セルフトリミングに挑戦する飼育者が増え、前述の通りバリカンの販売が伸長し明暗が分かれる結果となっている。
消耗品は飼育頭数で需要量が決まってくるため、今後の市場急拡大は考えにくいが、新しい生活様式が広がる中で、ケア関連市場を中心に今後も市場が拡大していく潜在的需要はあると考えられる。
ペット関連市場全体の拡大を継続させるには、業界側がペット飼育者の新しい飼育習慣を促進する、積極的な啓発活動が必要だろう。
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