「毎日食べられる」ブランド守る コロナ禍で安心求める消費者に 信州ハム・宮坂社長インタビュー
2021.04.19
1947(昭和22)年に前身の久保商店が設立されてから、信州・上田でハム・ソーセージを作り続けて75年目を迎える信州ハム(本社・長野県上田市)。コロナ禍で大きく変わる食品市場への対応について、宮坂正晴社長に話を聞いた。
―新型コロナウイルス感染拡大で食生活が大きく変わっていますが、ハムやソーセージの需要にどんな影響が出ていますか。
コロナ禍で消費支出の形が変わる中で、巣ごもり効果もあって家庭用の需要は伸びています。外食や業務用は厳しい状況ですが、信州ハムの得意先の85%はスーパーや生協といった小売店で家庭向けなので、そこでは悪い影響は感じていません。業績も順調に推移しています。
―商品別にみた場合、コロナ禍以前と比べ変化はありますか。
信州ハムのトップブランドで、無塩せきの「グリーンマークシリーズ」の売れ行きが順調に推移しています。
グリーンマークシリーズは1975(昭和50)年の発売なのですが、食品に対する不安感が広がった時に売り上げが伸びる傾向はあります。コロナ禍で人心が不安になっているとすれば、そういう中で消費者に選んでいただいているという点もあるかもしれません。
―グリーンマークシリーズとはどのような商品ですか。
グリーンマークシリーズにはパッケージに「無塩(むえん)せき」と表示しています。亜硝酸ナトリウムなどの発色剤を使わずに味付け、塩漬けをしているということです。グリーンマークとは、発色剤・着色料・保存料・リン酸塩を使用しないでつくられた信州ハムのハム・ソーセージに付けられるシンボルマークです。
最大の特徴は毎日安心して食べられるということです。味は肉本来の味がより素直に感じられると思います。
色は特徴的で、発色剤を使っていないため、ハムなどが「白っぽい」と言われることがあります。日持ちを良くする添加物を使っていないので、一般の商品より賞味期限が短くなってしまいます。
(信州ハム「グリーンマークシリーズ」)
理解進みブランド定着
―どのような経緯で売り出したのですか。
消費者運動が活発になってきた1970年代の初頭に、東京都台東区にあった消費者団体から「添加物を使わないハムやソーセージを作ってほしい」と、営業所に要望があったのをきっかけに開発しました。
最初は需要が開拓できず、5年くらいは8割くらいが返品されてきたと思います。
商品への理解が少しずつ進んで、その後スーパーなどの量販店の扱いが増えていきます。ブランドとして何とか軌道に乗ったのは90年代後半くらいからでしょうか。
―グリーンマークシリーズを今後どのように伸ばしていきますか。
添加物を使わないで安定した食品を作るのは、技術的に非常に難しいことですし、労力もかかります。でもお客さまの要望があり、中には「無添加しか食べない」という方もいらっしゃる。そういう要望に応えるというのもメーカーの責任と考えています。
グリーンマーク商品は幸い伸びが続き、ラインアップもハム、ソーセージだけではなく、チャーシューやレバーなどの食肉製品もそろいました。
来年にはシリーズ合計の売り上げが、売上高全体の50%を超えることを目標にしています。その目標も見据えて、昨年は実施せず2年ぶりとなる「お客さま感謝キャンペーン」を始めました。商品の詰め合わせやお花をプレゼントします。
―企業としてSDGs(持続可能な開発目標)にはどう対応していきますか。
ハムやソーセージを作るという仕事では、どうしても食品ロス、捨てる物が出ます。さらに無添加の商品を作ろうとすると、廃棄する部分が増えてくる。信州ハムはただ捨てるのではなくて、食べられるものは地域の児童養護施設に提供する活動を続けてきました。包装についても改善していきます。
企業としては、何でも安く売っていけば売り上げは伸びていくでしょうが、それでは何も残らず、存続できません。付加価値の付いたオリジナリティーのある商品を中心に、お客さまの要望に応えていきます。
信州ハムは前身の久保商店設立から75年目を迎えます。あと25年、元気で頑張って百年企業になりたい。SDGsの視点は非常に重要です。ずっと深く考えていこうと思っています。
宮坂 正晴(みやさか・まさはる) 1953年生まれ。長野県千曲市出身。75年に立命館大学産業社会学部卒業、信州ハムに入社。同年発売のグリーンマークシリーズと「同期入社」。東京での営業を長く担当し、常務、専務を経て2016年9月に社長に就任した。コロナ禍で夜の会合が激減し「自宅で読書をする時間が増えました」
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