コロナ禍で変わるパン消費 家庭用、業務用で明暗 加藤肇 矢野経済研究所フードサイエンスユニット特別研究員
2021.04.14
2020年春先から拡大した新型コロナウイルス感染症は国内で大流行し、4月の緊急事態宣言発令以降、国内景気は急速に悪化した。緊急事態宣言解除後は、旅行や飲食を対象としたGoToキャンペーンをはじめ、政府によるさまざまな経済対策の効果もあって、国内景気は徐々に回復に転じたが、11月以降は再び後退した。
パン業界では政府による全国一斉休校や外出自粛の要請から、また民間企業を中心とした在宅勤務の浸透や出張自粛によって、消費の形が変わってきている。(写真はイメージ)
量販店では食パンや食卓パンなど、食事系パンの需要が急増した。一方、都市部のコンビニでは、来店客数が減少し、菓子パン、総菜パン、デニッシュ、調理パンの需要が減少した。
百貨店やショッピングセンターなどの商業施設、駅ナカや駅前の通勤・通学路に立地するベーカリーは、店舗の休業や営業時間の短縮、来店客数の減少などで売り上げを落としている。
ここ数年、パン市場の裾野を拡大させた外食、ホテル、結婚式場、給食などの業務用需要は、コロナ禍で事業自体の存続が危ぶまれる状況にあり、大きく落ち込んだままだ。
パンの消費動向を見ると、新型コロナウイルス感染症の収束が見通せない中、買い物の頻度や場所が変化している。残業時間の減少や非正規雇用の不安定さから、節約志向が強まり、消費マインドは全般的には低下している。
他方、巣ごもり需要と言われる消費行動、「ニューノーマル(新たな日常)」と言われる生活様式が出現した。
朝食で家族と一緒に食パンや食卓パンを食べる、食パンを買ってきて具材を挟みサンドイッチを作る、子どもと一緒に焼き菓子を作る、「家飲み」でワインに合うフランスパンを食べるなど、コロナ禍以前は忙しさと面倒さから敬遠されたパンの「家庭内食」が拡大している。
量販店では複数個入りの食事パンや菓子パンが人気となり、まとめ買いで購入個数が増え、客単価も上昇する傾向にある。
ブームが続く高級食パンは、「手土産」や「自分用のプチぜいたく」に利用され、普段の食パンとは違う"食べ方"を消費者が選択している。高級食パン専門店は、首都圏や京阪神圏での出店を済ませ、地方都市のロードサイドなど、新たな立地と業態で展開している。
ウィズコロナの時代、消費者の行動様式や消費形態は変化している。量販店やコンビニ、ベーカリーなど従来型の店舗から、ネット通販や食品宅配など無店舗・非接触販売にパンの購入場所がシフトしつつある。
これによりパンの販売促進方法も変化しており、参入企業はSNS対応を強化している。参入企業はホールセール(卸)やリテール(小売り)といった従来のビジネスモデルを見直さざるを得ない状況だ。2021年、パン業界は大きな分岐点に差し掛かっている。
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