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「いまココ」の時代  気になる行政のスピード感  沼尾波子 東洋大学教授

2021.03.22

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「いまココ」の時代  気になる行政のスピード感  沼尾波子 東洋大学教授の写真

 1月に日本にも入ってきたClubhouse(クラブハウス)という音声のSNSアプリが話題になっている。アイフォーンのみアクセスできること、友人からの招待が必要であること、1人が2人までしか招待できないことから、当初利用者は限定的だったが、またたく間に広がった。

 クラブハウスに入ると、バーチャルな部屋(ルーム)が並び、中に入ると、やり取りは音声のみ。その場に居合わせた人たちで話の輪が創られる。臨場感あふれるやりとりを聴けるほか、主催者の許可を経て話者となることもできる。

 記録が残らず言いっぱなしとなるスタイルが面白い。リアルタイムでその場限りという「いまココ」の稀少な出会いを楽しむコミュニケーション・ツールともいえる。

 インターネット利用の形は次第に「いまココ」になっている。情報は検索エンジンを利用して、ウェブページから集めるものだと思っていたが、若い世代は、ツイッターやインスタグラムを検索し、投稿者が「いまココ」でアップしたフレッシュな情報をとるのだという。

 例えば、おいしいパンケーキの店を探そうとすると、ウェブページの情報はいわば公式な固定された情報である。これに対し、店を訪れた利用者がその都度投稿する情報は、その時々の状況を切り取ったものである。

 若い世代は「いまココ」の情報に敏感であり、店舗が提供する公式情報よりもむしろ、利用者の投稿情報をスクロールしながら、その店にいまどんな風が吹いているのかをつかもうとする。

 リアルタイム情報を文字と写真や映像でつかみ、また自らも書き込みを通じて、情報提供者となる。このように双方向型でスピード感のある情報ネットワークを活用しながら、立ち振る舞いや行動を決めていく。

 新型コロナウイルス感染症の拡大は、こうした流れを一層加速させることとなった。感染状況の変化に伴い、人々の対応はその都度変化する。状況を素早く把握し、スピーディーに対応することが求められた。LINE(ライン)やインスタグラムなどを通じて店舗や利用者の投稿を素早く確認しながら、臨機応変に対応する動きのなかに、新たな事業展開が生まれている。

 地域づくりの場面においても、若い世代を中心とした取り組みが各地で発揮される。彼らは、過去に蓄積された地域の知恵や技術、文化に注目し、それを大切にしながら、地域の将来ビジョンを描く。だが、軸足は常に「いまココ」にあり、目の前の人々との対話を通じて事業を創出する。

 過去の経験や将来ビジョンを大切にする姿勢をもちつつも、それに捉われず、今に軸足をおいたスピード感のある取り組みを展開する地域づくりがコロナ禍にあって、広がりを見せる。

 小回りが利き、意思決定がスピーディーに行えることが一層求められるようになっているとき、意思決定にもっとも時間のかかる行政のスピード感が気になって仕方がない。何にじっくり時間をかけ、何をスピーディーに行うか。的確な判断が求められていると感じる。

(Kyodo Weekly・政経週報 2021年3月8日号掲載)

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