欠かせない通信・測位の技術革新 実用化進むロボット農機 中川純一 矢野経済研究所フードサイエンスユニット主任研究員
2021.01.18
(写真はイメージ)
政府は2025 年までに、農業の担い手のほぼ全てがデータを活用したスマート農業を実践するとの目標を掲げ、普及を後押ししている。その中心的な役割を担うロボット農機について、開発・利用の現状と将来に向けた課題をまとめた。
農林水産省が2017年に制定した農機の自動走行時の安全確保に関するガイドラインによると、農機の自動化は、人が乗って手放し運転を行う程度がレベル1、レベル2は有人監視での自動化・無人化(有人機ー無人機での協調運転が可能)、レベル3は遠隔監視での無人運転(農道・公道走行、無人機での複数協調運転を含む)ーとなっている。
レベル1、レベル2の農機は既に市販されており、17年以降、ヤンマーやクボタ、井関農機などが相次いで、無人で動くロボット農機の製品化を進めている。
レベル2では農機に人が乗った状態で土を耕しながら、後に続く無人の農機で種をまくなど1人で2台の農機を動かせることから、単純に農作業の効率は2倍となる。
自動運転の田植え機が登場
クボタはレベル1対応のトラクター、コンバイン、田植え機を販売しており、レベル2では、ロボットトラクターを17年に、ロボットコンバインを18年に製品化した。そして20年10月には世界初となる自動運転が可能な田植え機を発売した。
通常、田植え機は機械を操作するオペレーター以外に、苗を補充する作業者が必要である。自動運転が可能になれば、オペレーターが不要になるため、少人数での作業が可能になる。
クボタの自動運転田植え機は、田植えだけでなく、水田ごとにどれだけの肥料が必要かを可視化する「施肥マップ」を作成する機能も備えており、効率の高い農業が実現可能となっている。
農機メーカーはさらに多機能なロボット農機の実現を目指している。例えばトラクターにロボットアームを取り付け、カボチャやスイカなどの重い野菜を1つずつ収穫する農機である。現在の無人農機は農地を耕したり肥料をまいたりするなど、大雑把で単調な作業しかできない。
通信・測位の技術革新不可欠
個別の収穫や除草などの細かい作業ができれば、人手はさらにかからなくなる。また農機をインターネットにつないで、センサーやカメラから農地の肥よく度や生育状態などのデータを集め、データを人工知能(AI)で学習させて、最適な作業ルートや栽培方法も導きだせるようになる。
一方で、農機を自動で動かすためには安全であることが大前提である。現在実用化されているロボット農機は、安全確保のため近くで人の目による監視が必要である。
高精度な衛星利用測位システム(GPS)が使える準天頂衛星「みちびき」や、次世代通信規格「5G」を利用することで位置制御の精度が上がり、通信速度の遅延も小さくなることから、これらの技術は、今後ロボット農機の普及には不可欠である。
またレベル3の完全無人運転では、遠隔監視のもとに農道を走行して、複数の圃場で無人作業の実現を目指している。それには、自動運転の実現には欠かせない3D高精度マップ(3次元地図)の活用など自動車メーカーの技術を取り入れることや、安全システムの一層の高度化など、さらなる研究開発が必要になっている。また農業用高速通信インフラの整備や、道路交通法の緩和も必要である。
見えてきた「データ駆動型農業」
将来、農機は動くIoT(モノのインターネット)機器として位置づけられ、複数台のカメラやセンサーを搭載した農機から、作物の生育や土壌、病害虫の発生、農作業などの状況、農機シェアリング(共有・共用)を行うための農機の空き状況など、さまざまなデータが収集されるようになる。
それらのデータは農機以外のさまざまな情報と組み合わせてAIが処理・分析することにより、農作業者が取るべき行動を適切かつ適時に促してくれるようなソリューション(課題解決)が可能となる。
ロボット農機の普及により、データ分析に基づき生産の意思決定を行うことで、各作業のタイミングなどの判断に迷うこともなく、天候不順の影響も受けず、安定して高品質な農業生産を実現する「データ駆動型農業」が可能となる。
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