豪州産の野菜、もっと日本へ クイーンズランド州の農相に聞く NNAオーストラリア
2021.01.11
オーストラリア北東部のクイーンズランド州は「サンシャイン・ステート」の異名を持つ。グレートバリアリーフなどの観光地は日本でも名高いが、同州の牛肉生産量はオーストラリア最大、青果生産も国内1位とれっきとした農業州だ。
クイーンズランド州の農産物の輸出相手国は日本が第1位だが、州政府は日本とのつながりを一層強化する取り組みを行っているという。同州のマーク・ファーナー農業水産相(写真、いずれも同州政府提供)に話を聞いた。
―新型コロナウイルス感染が世界に拡がる中、州政府は日本への農産物・食品輸出業界をどのように支援していますか。
経済復興戦略の一部である「クイーンズランド雇用再生計画」を通し、農業分野に1250万豪㌦(約10億円)を当てています。まずデジタルトランスフォーメーション(DX)に550万豪㌦を投じています。生産から消費までの過程を追跡するトレーサビリティ―や、バイオセキュリティー、食品の安全を向上させる統合型サプライチェーンを開発する目的です。
次に農業貿易関係の再活性化に500万豪㌦を当て、主要市場における電子商取引や貿易に仮想的な方法で関与する「バーチャル・トレード・エンゲージメント」や、航空輸送の需要調整の支援を進めます。
例えば連邦政府の国際貨物支援制度(IFAM)を活用し、日持ちしない高品質な生鮮食品などについて、日本への輸出を支えてきました。現在はIFAMの支援により、ブリスベンから成田空港へ1週間に1便の貨物チャーター便が運航しており、クイーンズランド州は商品の流通を継続することができています。
―「バーチャル・トレード・エンゲージメント」の機能を教えてください。
オンライン会議のようなバーチャル・エンゲージメント(仮想的な結びつき)の活用は、今や新常態(ニューノーマル、新しい常識)となっています。高品質な農産物や付加価値の高い食品・飲料を確実に市場に届けるためにできることはすべて行っていますが、バーチャルな環境での会議やイベントの開催は、これを貿易相手国に再認識してもらう有益な方法です。
州政府は昨年9月1~3日、渡航規制による困難を状況を乗り切るため、日本向けの「バーチャル貿易ミッション」を試験的に実施しました。州政府駐日事務所の安達健代表を中心に、州内25の新しい日本向け輸出事業者を対象に、ブリーフィングなどを行いました。
私は日本の農林水産省の幹部とのバーチャル協議を主催しました。同省が関心を示している州北部での青果栽培の研究事業支援について話し合いました。クイーンズランド州と日本の生産者双方にとって、長期的に利益をもたらす可能性がある事業です。
農林水産省の皆さんには州北部にある新しい「開閉式屋根付き温室」を紹介しました。この研究は季節が逆であることを利用した、価値の高い新しい作物を生産することにつながるものです。
クイーンズランド州の生産者が栽培したメロンやナス、トマトといった作物を、日本や他のアジア市場に輸出できるようになるでしょう。
―なぜ日本が「バーチャル貿易ミッション」の対象になったのでしょうか。
日本との間には長期にわたる強固で信頼できる相互的な関係があるからです。日本は非常に重要な市場です。州の貿易相手国の中で日本は2番目に大きく、農産物の輸出市場としては最大です。2019/20年度(19年7月~20年6月)の州の農産物輸出額のうち、日本向けは19.7%に上りました。
対日輸出の総額は前年度比で17%ほど減りましたが、農産物輸出は引き続き堅調で3.7%増えました。増加に寄与したのは最大の輸出品目である牛肉です。輸出額は約16億豪㌦で、前年度から4.1%増えました。クイーンズランド州は63カ国に牛肉を輸出していますが、日本は輸出量・輸出額ともに最大で、最も大切な顧客なのです。
―州の農産物について、今後日本市場でどのような需要の伸びを期待していますか。
クイーンズランド州の農産物の日本市場における競争優位性は、まずオーストラリアのブランド力、食品の安全性が認知されていることがあります。日本との貿易・投資関係が成熟していることや、時差が少なく、季節が逆なことを利用した生産機会があることも一つです。さらに効果的な海運、空運サービスがあることも挙げられます。
日本の消費者は洗練され、目が肥えています。日本市場は成熟しており、競争も非常に激しい。そのため州の生産者は、独自のセールスポイントを備えた新しい商品を投入する必要があると自覚しています。
(写真:日本で販売されたカボチャ。日本国産と変わらない味と好評だった)
最近成功事例が生まれました。輸出規格に準拠したカボチャを船便で初めて日本に出荷したのです。この事業は州政府農業・水産省の食品輸出促進プログラムが資金支援し、生産者のパートナーである大手農業企業クオリパックと、日本の輸入事業者、州政府貿易・投資庁、そしてクイーンズランド大学が協力しています。
カボチャは日本の食事に欠かせないものです。クオリパックはカボチャの栽培方法や収穫時期について学び、日本市場の非常に厳しい仕様を満たすため、新しい輸出用包装にも投資しました。
日本のカボチャ市場はメキシコ産とニュージーランド産が大半を占めており、オーストラリアで商業的に生産されたものが日本に出荷されたことはありませんでした。しかし現在、生産者は強い関心を持っており、ある州北部の生産者は、今年9~10月に100㌧のカボチャを日本に輸出する計画を立ています。
クイーンズランド州ではいま冬野菜がシーズンのピークを迎えています。州政府農業・水産省の食品輸出促進プログラム(GQFE)は、主に青果生産に焦点を当て、州の生産者による輸出の可能性を十分に生かせるようにしています。
GQFEが支援しているプロジェクトは15件あり、研究やサプライチェーン、輸出の発展に関する専門知識をあらゆるレベルの政府や民間部門から集結させ、州の農業・食品輸出事業者の能力開発を手助けしています。
―クイーンズランド州は日本からの農業分野への投資を歓迎していますか。
もちろんです。州政府は農業分野への投資を強く支援しています。投資は日本との関係における非常に大事な側面です。
州政府貿易・投資庁(TIQ)は農業への投資を促進しており、農業・水産省もこれを支援しています。私たちは農業界のサプライチェーンへの民間投資を呼び込み増加させるために、全力で取り組んでいます。
日本の企業とは今後も継続して協業し、高品質な食品の生産や輸出における計り知れない潜在的可能性を解き放ちたいと考えています。
〈マーク・ファーナー(Mark Furner)氏〉 オーストラリア・クイーンズランド州政府農業水産相。労働党(ALP)所属。農業サプライチェーンでの勤務経験を持ち、2007年にオーストラリア上院議員として初選出。17年より現職
(オセアニア農業専門誌ウェルス(Wealth) 1月8日号から)
【ウェルス(Wealth)】 NNAオーストラリアが発行する週刊のオセアニア農業専門誌です。
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