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TPP参加表明で中国が攻勢  日本は通商戦略練り直し必要

2020.12.04

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 日本、中国、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)など15カ国の首脳が地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に署名してわずか5日後の11月20日、中国の習近平国家主席は環太平洋連携協定(TPP)について「積極的に検討する」と表明、中国の存在感が一気に強まった。

 大国の中で唯一、新型コロナウイルスの感染拡大から立ち直り、経済成長を続けている中国は、もはやどの国も無視できない。日本政府は通商戦略を早急に練り直す必要がある。

 日本政府はRCEPについて、中国の存在感を薄める戦略で臨んだ。ASEANと日中韓による13カ国の交渉を主張していた中国に対し、オーストラリア、ニュージーランド、インドを加えるよう提案、交渉は16カ国で始まった。結果的にインドが脱落し、日本政府の思惑は外れた。

 その落胆ぶりは、RCEPに対する国内報道の過小評価という形で現れている。確かに、RCEPはTPPと比べると、関税の即時撤廃品目が少ない。知的財産権の保護、環境や労働規制、投資やデジタルデータなどに関するルールについても踏み込んでいない。国有企業の規律は議題にもならなかった。

 外務省は日本語の表記だった「東アジア地域包括的経済連携」から「東アジア」を削除、普通名詞に格下げしてトーンダウンに努めている。「獲得に失敗したが、大したものではない」と負け惜しむ、イソップ寓話の「酸っぱいブドウ」のような幼稚さだ。

 しかしRCEPにより人口、国内総生産(GDP)ともに世界の約3割を占める巨大経済圏が成立する意義は大きい。日本が中韓両国と初めて経済連携協定を締結するという点でも画期的だ。RCEPを過小評価するのは間違っている。

 一方、安倍晋三政権のレガシーとされるTPPからは、米国が離脱。タイ、韓国、フィリピンなどが参加に関心があるとされてきたが、一つも実現していない。政府は米国のTPP復帰を期待しているようだが、バイデン政権が発足しても、その可能性は低い。それどころか米国は政権移行期にあり、通商問題で主導権を発揮できない。

 こうした状況を読み切って、習主席はTPPへの参加意欲を明示した。一帯一路、RCEPと3段構えの重層的な通商戦略だ。国有企業優遇の禁止や知的財産権保護の強化などはハードルが高く、参加の実現性は低いという指摘もあるが、中国の開放姿勢を見誤っている。国有企業の改革の必要性を最も痛感しているのは習政権であり、TPP参加を外圧として改革を進める戦略だ。

 中国の孔鉉佑駐日大使は、12月1日にウェブ会議形式で開かれたフォーラムで「(世界経済の回復には日中の)両国の連携が唯一の選択」と表明、今後も「米国抜き」というメッセージを繰り返し送り、日本に米国離れを促すだろう。中国の「TPP参加」は本気だ。米国がTPPに復帰しなければ思う壺。復帰すれば、TPPはアジア太平洋を米中2カ国で取り仕切る「G2」の基盤となる。いずれにせよ、中国に失うものはなく、日本の立ち位置はますます難しくなる。

 日本政府は、もともとTPPの狙いを「東アジアの成長を取り込む」と説明し、中国の参加を前提としていたのに、安倍政権下では「中国包囲網」として語られるようになった。その構図は米国の離脱で瓦解し、コロナ禍で中国の存在感が強まった。TPPの位置付けを再定義する時期を迎えている。(共同通信アグリラボ所長 石井勇人)

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