「キムチ」で中韓が文化衝突 平井久志 ジャーナリスト
2020.12.28
韓国といえばキムチ、キムチといえば韓国だ。そんなキムチをめぐって韓国と中国のメディアが文化的な衝突を起こしている。
韓国の朝鮮日報は、中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報が11月28日「中国のキムチ製造法が同月24日、国際標準化機構(ISO)の承認を受けて『国際標準』になった」と報じたと伝えた。環球時報は「中国のキムチが国際キムチの基準になった」「韓国は屈辱を受けた」と報じたとした。これに対し、朝鮮日報は「キムチがあきれかえる‥『中国キムチ』が世界標準になったって」と批判した。
これは朝鮮日報だけでなく、韓国の他のメディアでも大きく報じられた。東亜日報は社説にまで取り上げ「韓国人の自尊心を刺激する中国の言行が最近頻繁になり、その分野も政治・経済から文化・生活まで広がっている」と批判した。
この中韓衝突の火付け役になった環球時報の記事を見てみると、中国市場監管報を引用し、四川省眉山市の塩漬け発酵野菜である「泡菜」(パオツァイ)がISOに国際標準として認められたと報じている。「泡菜」であり「キムチ」ではない。
しかし、見出しは「中国主導で泡菜の国際標準を制定、韓国メディア爆発、泡菜宗主国の恥辱」と、韓国を刺激する内容だ。中国の漬物である「泡菜」が国際標準として認められたのなら、別に問題はないが、見出しは明らかに韓国を刺激するものだ。この背景には「キムチ」と「泡菜」についての韓国と中国の認識の差がある。
韓国では「キムチ」と「泡菜」はまったく別のものだという考えだが、中国では「キムチ」は「泡菜」の一種だという考えだ。だから中国では「キムチ」も「泡菜」と呼んだりもする。環球時報は「キムチ」と「泡菜」をごっちゃにして、もう韓国は「泡菜宗主国」ではないだろうとむちゃ振りの主張をした。
世界的な人気を誇っている男性音楽グループ「BTS(防弾少年団)」が10月初めに、朝鮮戦争について「(韓米)両国が共に経験した苦難の歴史と数多くの男女の犠牲を永遠に記憶するだろう」とあいさつした。
これに対し、中国のSNSでは「侵略したのは米国側だ」という批判が起きた。この時も環球時報は10月12日付で「BTSは過去、台湾を国として認識する発言もしていた」とBTS批判をあおった。
中国と韓国のメディアが、泡菜とキムチを素材に嫌韓と嫌中の大騒動を繰り広げたかたちだ。日本では韓国政府の親中ぶりばかりが取り上げられるが、最近は中韓間のこうした文化的な葛藤が相次いでいる。
メディアがお互いの嫌韓感情、嫌中感情をあおり、ネットでページビューを稼いでいるように見える。これを見ていると、日韓メディアでも、似たような現象があるのではと自省する。
だが、「キムチ宗主国」の地位が揺らぎ始めていることは事実だ。安価な中国産キムチの韓国への輸入は毎年増加し、韓国関税庁によると2019年の輸入量は30万6050㌧。輸出量より輸入量が多いのが実情だ。
この背景には、中国産キムチの安さと、韓国の白菜栽培面積の減少がある。韓国の栽培面積は2000年には5万1801㌶だったが、19年には2万6636㌶と半減した。
韓国の食堂などで使われるキムチは安い中国産が多い。韓国の食堂で日本人観光客が「やっぱり、本場のキムチは味が違うねえ」などと言っているのを聞くと、つい「それ、たぶん中国産ですよ」と突っ込みたくなるのである。
(Kyodo Weekly・政経週報 2020年12月14日号掲載)
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