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宇宙を駆けるしょうゆ  山下弘太郎 キッコーマン国際食文化研究センター

2020.12.07

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宇宙を駆けるしょうゆ  山下弘太郎 キッコーマン国際食文化研究センターの写真

 スペースシャトルの退役から9年、いよいよ後継の有人宇宙船クルードラゴンが打ち上げられました。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙飛行士野口聡一さんも、この記念すべきミッションにクルーとして搭乗しています。

 今回、野口さんとともに宇宙に飛んだのが「キッコーマン宇宙生しょうゆ」(写真:キッコーマン提供)です!

 2017年にJAXA宇宙日本食に認証されたこのしょうゆについては、ニュースなどでも取り上げられ、ご存じかもしれません。

 国際宇宙ステーション(ISS)での生活は、微小重力下ということもあり、想像以上に大変のようです。それを支えているのは宇宙食なのですが、近年ではISS計画の国際パートナー各国のバラエティーに富んだ食材が供給されるようになってきているそうです。

 日本ではJAXAがISS宇宙食供給の基準文書「ISS FOOD PLAN」に基づいて宇宙日本食の認証をおこなっています。生産設備、衛生面、栄養面、品質、保存性の検査はもとより、色、におい、風味、食感、外観などの官能評価をクリアして初めて認証されるという難関でもあります。

 現在、宇宙日本食に認証された食品は24の企業・団体が製造する45品目あり、主食、副食、汁物、飲料、デザート、調味料とカテゴリー分けされています。

 さらに、各国が認証した宇宙食はISS長期滞在が決定した宇宙飛行士を対象に試食会がおこなわれ、搭載する品目が決定されるのです。

 宇宙食の役割は宇宙飛行士の健康の維持と栄養の確保だけではなく、精神的ストレスの軽減や気分をリフレッシュすることによるパフォーマンスの維持・向上だということで、おいしくてバラエティーに富んでいることも大事なのですね。

 今回の滞在ミッションでは、食事の変化が宇宙飛行士の体にどのように影響するかの研究もおこなわれることになっているほか、10月に無人補給機で種子が打ち上げられ、ISSで栽培されている宇宙ラディッシュがクルーの食卓に上がることになっているそうです。

 将来の月面や火星の有人探査に向けて「食」に関する話題が多いことも今回のミッションの特徴かもしれません。

 さて、今回の宇宙しょうゆですが、宇宙生活を考えた仕様になっています。宇宙空間では地上に比べて骨密度が低下しやすいそうです。ナトリウムの摂取はカルシウムの代謝を促進し骨密度の低下につながるため、宇宙しょうゆは普通のしょうゆと比べて食塩分を25%カットした塩分ひかえめタイプになっているのです。

 日本の伝統的な調味料であったしょうゆはこの半世紀でグローバルな調味料として世界中で使われるようになりました。今回はしょうゆがユニバーサルに展開する第一歩となるでしょう。

 約半年間におよぶISSでの長期滞在の間、日本の伝統的な醸造技術でつくられた「宇宙しょうゆ」がクルーの皆さまに楽しい食事の時間をお届けする一助になることを願ってやみません。

(Kyodo Weekly・政経週報 2020年11月23日号掲載)

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