豪州産羊肉も輸入停止 止まぬ中国の報復規制 小麦や綿花、蜂蜜も? NNAオーストラリア
2020.12.11
豪中紛争が激化する中、中国が今度はオーストラリア産羊肉の輸入を停止していることが分かった。
加工大手のオーストラリア・ラム・カンパニー(ALC)と食肉最大手ブラジル系JBSオーストラリア(豪JBS)のブルックリン工場の羊肉に対し、中国が輸入を差し止めていることが判明。オーストラリアの食肉加工会社に対する中国の禁輸は計8社となった。
両国の対立に収束は見えず、オーストラリアの小麦や綿花も禁輸対象になるとの臆測が広がり、養蜂、酪農、ビタミン剤など中国市場への依存度が高い業界の混迷は強まる一方だ。(写真:小麦などを保管する生産者団体カンガルー・アイランド・ピュア・グレインのサイロ=カンガルー島、NNAオーストラリア撮影)
ALCと豪JBSブルックリンは今年7月、新型コロナウイルスの影響でビクトリア州の加工場を一時閉鎖。感染者はなく短期間で操業を再開したものの、その後中国は2社の羊肉の輸入を受け入れていない。
同州コラックの工場で600人を雇用するALCは、小売大手コールズの主要サプライヤーでもあり、JBSブルックリンは1200人を雇用する共に業界大手だ。
業界団体食肉産業カウンシル(AMIC)のハチソン最高経営責任者(CEO)は「これまで中国側との関係は強固だったが、現在は通知もなく対話もできず、すべてが劇的に変わった」とした。
連邦政府リトルプラウド農相は「外務省や、北京駐在の通商当局、農業省職員を通じ、早期再開を働きかける」と語った。
オーストラリアの中国向け羊肉輸出高(19/20年度)は7億8000万豪㌦(約600億円)を記録。中国への輸出量は2012年以降、輸出高も19年に米国を抜いて以降最大の市場だ。
中国は、米国やブラジル、アルゼンチンなど新型コロナの感染率が高い国からの羊肉輸入は停止していない。
サプリ、中国依存6割以上
中国は直近でオーストラリアの木材や牛肉の禁輸措置を拡大した。次は小麦と綿花が中国の「標的」になるとの臆測も広がる。また、養蜂、酪農、ビタミン剤、青果の各業界も中国市場への依存が強く、禁輸の可能性も大きいとの指摘もある。
ハチミツの中国向け年間輸出量は30万㌧を越え、過去5年間の平均年間成長率は4.1%に上る。中国向けは輸出全体の4分の1を占める一方で、中国側にとって代替輸入元は多い。
特にマヌカ・ハニーは生産地が限定されるオーストラリアの高価値輸出品である一方、中国はニュージーランド産の輸入も可能だ。
ビタミン剤などのサプリメントも中国市場への依存度が高く、禁輸リスクも大きい。オーストラリア製サプリの売上高のうち、今年度中国市場が占める予想シェアは62.2%に上る一方で、中国の輸入全体に対するオーストラリア製品の割合は5分の1程度という。
オーストラリアのサプリは18/19年度にはそれまでの3倍となる6億8000万豪㌦の売上を上げたが代替輸入元は米国やカナダなど多数にわたると言われる。
酪農に関してはやや状況が異なる。オーストラリア産全脂粉乳の対中輸出量は、豪中自由貿易協定(FTA)の輸入基準量(2万2335㌧)を10月にすでに超えた。しかし中国はこれまでの関税(5%)を維持している。
業界では「中国政府は消費者のために変更せずと判断した」との見方もある一方で、警戒する声も強い。専門誌によると北京の状況を確認する業界横断の組織が形成され、中国政府を警戒し目立たないように情報収集しているという。
豪産羊毛は禁輸心配なし?
輸出市場の多様化の重要性が叫ばれる中、農業資源経済・科学局(ABARES)は最新のリポートで国内農業の分野別中国市場への集中度を明らかにした。輸出における中国市場の占有率が最も高いのは羊毛で79%、小麦が最も低く中国のシェアは10%だった。
また、市場集中度を測定し1万㌽が完全寡占を示すハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)でも、羊毛が6300㌽と中国への集中が最高となり、780㌽の小麦が最も分散していた。
ABARESは羊毛に関し、中国は世界生産量の約半分を輸入する市場であることから、オーストラリアにとって代替市場への切替えは困難と指摘した。
だが一方で、オーストラリアは羊毛の最大生産国であることから、中国が輸入規制をした場合、中国の繊維加工業者にとっても影響が大きいとした。中国の輸入羊毛に占めるオーストラリア産のシェアは75%に上るという。
輸出市場数はワインの91カ国が最多だった。16カ国と最少の綿花もリスクが高い。
(オセアニア農業専門誌ウェルス(Wealth) 12月11日号掲載)
【ウェルス(Wealth)】 NNAオーストラリアが発行する週刊のオセアニア農業専門誌です。
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