豪飲料大手を欧州コーラが買収へ 業界の再編加速 NNAオーストラリア
2020.11.04
オーストラリアの飲料大手コカ・コーラ・アマティル(CCA)を、英国を拠点とするコカ・コーラの世界最大のボトラー、コカ・コーラ・ヨーロピアン・パートナーズ(CCEP)が買収する見通しであることが分かった。
(写真:シドニーの繁華街キングスクロスにある看板=NNAオーストラリア撮影)
CCEPはCCAに対し、オーストラリア企業が関わる買収で今年の最大規模となる93億豪㌦(約6975億円)での買収を提案、CCAのアリソン・ワトキンス社長は受け入れるもようだ。またCCEPはこの買収の後、アジア市場への進出を図る計画とみられる。
CCAは10月26日に開催した投資家向けブリーフィングで、CCEPから1株当たり12.75豪㌦、総額92億8200万豪㌦で、買収提案があったと発表した。親会社の米コカ・コーラ(TCCC)が30.4%を保有するCCAの株式もCCEPが取得するという内容だ。取締役会も満場一致で受容を勧告する方針とみられる。
CCAの現在の時価評価額は78億豪㌦。一方のCCEPの時価評価額は248億豪㌦と、3倍以上の開きがある。
CCEPのダミエン・ガメル最高経営責任者(CEO)は、オーストラリアやニュージーランド(NZ)でのCCAの業績は良好と評価、今回の買収は効率化が目的ではく、将来性に着目したものと強調した。同氏は「買収により顧客数は6億人と倍増し、成功体験の共有は成長を加速させる」と語った。
ビール市場にも影響
実際にCCAの業績は回復基調にある。今年第3四半期の売上高は4.2%減で、前半期の9.2%減から上向き、販売量も前半期の11.6%減から、第3四半期は5.4%減まで戻った。
だが同社にとって消費者の健康志向の高まりは、事業の不確実性につながるという見方もある。水やコーヒーなども展開し市場の多様性を高めているものの、同社の主要商品は依然、炭酸飲料だ。糖分の多い飲料を敬遠するトレンドが業界再編の圧力を強めたという。
ワトキンス社長は「2020年のことも考えるが、その後の収益の検討も必要だ。今後は明らかにポジティブだが、重大なリスク要因と多くの不確実性も存在する」と指摘、「その不確実性は短期的なものでは無く、中期的な問題」と述べている。
今回の買収の動きは、飲料大手アサヒグループの放出するビールブランドの取得交渉にも影響を与えたとみられる。実際に業界では、CCEPはアルコール飲料への投資から一歩引いていることから、ヨーロッパ資本になる前提で、CCAのビールの買収は白紙に戻ったという声も上がった。
また、ウールワースやコールズなど大手小売業者に対しては、今後これまでとは規模が大きく違うサプライヤーと対峙することを不安視する声もある。
CCAの買収には、2008年にキリンホールディングスのオーストラリア子会社のライオンが触手を伸ばしたこともある。当時80億豪㌦での買収が提案されたが、オセアニア市場におけるキリンの影響力拡大を嫌ったTCCCが拒否、親会社同士の交渉も不調に終わったとみられる。
次の標的には日本も?
CCEPはオセアニア市場を足がかりに、アジア市場へ拡大するとみられる。橋頭堡となるのがインドネシアで、ガメルCEOは「インドネシアで成功を収めた後は、アジアにはチャンスが広がっている」と語っている。具体的にはコカ・コーラ・ボトラーズ・ジャパン、中国最大の食品会社の中糧集団、香港のスワイヤーグループなどが展開しているボトリング事業の買収を意味しているとみられる。
CCEPの計画の背景にあるのはアジアの可能性だ。かつてCCAも同市場に展開していたが、2001年にフィリピン、07年に韓国から撤退した。14年には株式の29%をTCCCに売却し、代わりにTCCCがインドネシア市場に5億米㌦(約530億円)を投入するという施策も実施している。
CCAのアジア市場への消極姿勢は、当時アジアの炭酸飲料市場は未発達で、1人当たりの消費量が低迷していたことが理由とみられる。また、現在のワトキンス社長は国内売上の回復に手一杯だった状況だ。だがCCEPのガメルCEOは「(アジアと)欧米との消費量に大きな差があり、すべての市場で消費水準を引上げる余地がある」と自信を見せた。
米コカ・コーラも熱視線?
TCCCは保有するCCAの株式を不利な条件で譲渡することを認めている。このことから、CCEPのアジア進出計画を承認しているという見方もある。またその譲渡は一部CCEPの株式と交換とされ、TCCCも間接的にインドネシアへの関与を増やすとみられている。
(オセアニア農業専門誌ウェルス(Wealth) 10月30日号掲載)
【ウェルス(Wealth)】 NNAオーストラリアが発行する週刊のオセアニア農業専門誌です。
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