豪州へ届け、日本のICHIGO 地元産との共存探る NNAオーストラリア
2020.11.13
今年9月、日本の農林水産省が国産イチゴに関しオーストラリアの検疫当局と植物検疫条件で合意、輸出が可能になったことを受けて在豪日本人関係者が動き出している。
現在オーストラリアのイチゴの年間市場供給量は約7万㌧。そのうち輸入品はわずか2㌧に過ぎない。ほぼすべてが豪州産のストロベリー市場に、日本産のイチゴを参入させる構想だ。「甘いイチゴ」を知らないオーストラリアの消費者は、プレミアウムの付く日本の「ICHIGO」を受け入れるだろうか。
9月に就任した菅首相にとって日本産農産品の輸出拡大は思い入れのある政策の一つといわれる。日本政府は今年、農産品輸出額を2025年までに5兆円と、これまでの実績の5倍超に引き上げる新たな目標を掲げた。
中でも輸出の伸び代があると期待されているのが青果。推進役となる農林水産省は、特に果物は味で品質の絶対的な差異を訴求することが可能とみて、ブランド化を成功させ安定的な取引を期待する。
その状況の中、日本産イチゴの豪州向け輸出の取り組みの第一歩として今月6日、在豪の業界関係者やシドニー、メルボルンの領事館関係者による協議が実施された。オーストラリア市場の状況把握や輸出の課題を整理、共有するのが目的だ。
「ストロベリー」とは別物
協議では、イチゴは温度の変化に敏感なため、輸送時の温度管理が最も重要という指摘が出た。日本の生産時期は南半球の真夏に当たり、途切れのないコールドチェーンが必要とされる。両国をつなぐ輸出入業者も不可欠な存在だ。
一方で、すでに日本からアジア諸国への輸出は実績があり、技術や知見の共有が有効という意見も出た。
(図解:ホート・イノベーションの資料を基にNNA作成)
販売ターゲットの設定も重要だ。オーストラリアで一般に流通している「ストロベリー」とは別の「ICHIGO(イチゴ)」としてブランド化、高級レストランなど「価値を理解できる客層」に対し展開していく方法が提案された。
一方で日本食レストランや日本食材店から浸透を図るというアイデアもあった。さらに、輸出に興味を持つ日本の生産者の発掘も課題として挙げられた。オーストラリア市場に目を向ける地方自治体とのタイアップも効果があるとの指摘もあった。
価格差10倍以上の和牛
オーストラリアの2019年のイチゴの生産量は7万6604㌧、前年比18%減だった。平均価格は1㌔当たり5.12豪㌦(約385円)で、前年に比べ7.7%上昇した。一方で日本での2019年の平均価格は同1848円(東京都区部)。日豪の価格差は、現在のレートで4倍以上だ。この差をいかに付加価値で埋めることができるかが今後の課題となろう。
実際にプレミアウム・ブランド食品としてオーストラリア市場で販売されている日本産和牛を例にみると、オーストラリア産牛肉の小売価格は1㌔当たり20.64豪㌦(豪統計局、2019年)。それに対し日本産和牛(A5)の小売価格は同250~500豪㌦(NNA調べ)で、実に10倍以上の価格差で販売されている。
2018年に日本産牛肉のオーストラリア向け輸出が17年ぶりに再開され、昨年来豪した日本畜産物輸出促進協議会関係者は「和牛で大きなシェアは狙っていない。パーティーや記念日といった特別な行事で味わってもらいたい」と語っている。
豪生産者「共存可能」
オーストラリアの生産者は、日本産イチゴの輸入を比較的冷静に受け止めているようだ。昨年6月にオーストラリア農業省が日本産イチゴの輸入を認める方向だと明らかになった際、青果大手コスタ・グループは「日本のイチゴの輸入を認め、オーストラリア産ブリーベリーの輸出交渉に進展が期待できる」と交渉材料として認めるとした。
また、業界団体のオーストラリアン・フレッシュ・プロデュース・アライアンス(AFPA)も「重要なのは日本向け輸出をどう増やすかだ」とし、イチゴの輸入に反対しない意向を示した。さらには「日本産のイチゴは高級品として扱われ、大量の輸入は行われない」と予想し、共存は可能との見方をしている。
オーストラリアではすでに、バイオセキュリティー上に問題がない限り、ニュージーランドや米国、韓国からイチゴの輸入を行っている。
(オセアニア農業専門誌ウェルス(Wealth) 11月13日号掲載)
【ウェルス(Wealth)】 NNAオーストラリアが発行する週刊のオセアニア農業専門誌です。
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