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試される首相の「度量」  「胆力」示した農水政策研

2020.10.28

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試される首相の「度量」  「胆力」示した農水政策研の写真

 日本学術会議が推薦した新会員候補105人のうち6人の任命を、菅義偉首相が拒否した。さらに菅政権は、日本学術会議を行政改革の対象として検証する方針だ。「学問の自由の侵害には当たらない」という政府の説明を信じたいところだが、予算や事務局定員の妥当性について「聖域なく見ていく」(河野太郎行革担当相)という姿勢は、日本学術会議だけでなく、国立大学や国の研究機関、文部科学省の助成を受けている研究者にとっても、重圧となる。

 こんな雰囲気の中、農業史の研究家である藤原辰史・京大准教授は1020日にオンラインで開催された「コロナ新時代の農と食」と題する講演(資料)で、菅首相の政策を理路整然と批判した。

 「新型コロナウイルスの感染拡大によって、 新自由主義が抱えている問題が露呈した」との認識を示した上で、米カリフォルニア大学バークレー校のウェンディ・ブラウン教授の著作「いかにして民主主義は失われていくのか 新自由主義の見えざる攻撃 」を紹介しながら、安倍晋三政権から続く政策の問題点を指摘、菅首相が提唱している「中小企業の再編」などについて「小さなものを大きなものへ再編していく新自由主義のトレンド」と批判した。

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 このセミナーは農林水産省の農林水産政策研究所が主催した。首相を批判する学者も勇気がいるが、「官僚」でもある主催事務局の「胆力」は賞賛に値する。信念をまっすぐに表明する学者は健在だし、発言の機会を与える国の機関も、確かに存在する。当たり前のことかもしれないが、それに安堵しなくてはならないほど、今の空気は病んでいる。

 もう一つ実例を挙げよう。少し前だが、福島や茨城など8県産の水産物輸入を禁止する韓国の措置について、日本政府は世界貿易機関(WTO)に提訴、2019411日に紛争処理の「二審」に当たる上級委員会が韓国の主張を認め、日本の逆転敗訴が確定した。

 当時官房長官だった菅氏は「わが国が敗訴したとの指摘はあたらない」と開き直ったが、これに対し、独立行政法人・経済産業研究所(RIETI)の非常勤研究員の川瀬剛志・上智大教授が「遺憾に思う」と名指しで批判した。

 国際経済法の専門家として、理を尽くして説明した上で「苦境にある被災地を救うべく措置の撤廃に追い込めなかったことは、この紛争を提起した目的を達せられないのであり、紛れもない『敗訴』だ。この点は『霞ヶ関のシンクタンク』RIETIの末席を汚す者の使命として、敢えて苦言を呈しておきたい」と結んだ。

 この論文は今でもRIETIのホームページに掲載されている。目次の最下段に「当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、経済産業研究所としての見解を示すものでは有りません」と小さく書いてあるが、こんな逃げ口上は本来不要だ。

 農林水産政策研究所やRIETIは、自由闊達な議論の場を守り抜いてほしい。菅首相や政権幹部には、こうした学者や研究機関の苦言を受け止める度量の深さを期待したい。それが「学問の自由を侵害しない」ことに対する最大の証しとなるだろう。(共同通信アグリラボ所長 石井勇人)

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