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大規模化進む施設園芸  中川純一 矢野経済研究所フードサイエンスユニット主任研究員

2020.08.24

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 大規模化進む施設園芸  中川純一 矢野経済研究所フードサイエンスユニット主任研究員の写真

(写真はイメージ)

 野菜・果樹・花卉などの施設園芸作物は、国内の農業産出額の約4割を占めるとともに、新規就農者の85%が中心作目として選択する重要な分野である。

 施設園芸には課題もある。冬に加温が必要な品目も多く、経営コスト削減や地球温暖化対策の面から化石燃料依存からの脱却が必要となっている。

 農林水産省は施設園芸の構造改革ともいえる「次世代施設園芸の拠点整備事業」で、2013年から5年間で全国10カ所のモデル拠点を整備した。

 北は北海道苫小牧市から南は宮崎県国富町まで、南北に長い日本の気象条件を考慮して全国に均等に配置し、約120億円の予算を投入した。

 各拠点の面積は3㌶が基本で、最大は高知県四万十町の4.3㌶である。高度な環境制御技術を導入した大規模次世代ハウスと、集出荷施設をセットで建設し、先端技術と強固な販売力を融合させて生産から選果、出荷、販売までを一気通貫で展開している。

 拠点への補助金交付の要件として、3項目の数値目標設定を求められており、計画・実行・評価・改善の4段階を繰り返す「PDCAサイクル」を回して毎年度、評価・報告している。

 その3項目は①10㌃当たりの収量(反収)、②化石燃料の削減率、③従業者1人当たりの収量(労働生産性)ーで、反収では現状の平均2~3倍の目標設定も少なくないが、栽培開始から数年でクリアしている拠点もある。化石燃料は3割以上の削減が目標とされている。

 2016年度以降は、10拠点から他地域への展開として、農林水産省の「強い農業づくり交付金」を活用して、民間事業者が札幌市(株式会社Jファーム)と長崎県諫早市(愛菜ファーム株式会社)に大規模施設を整備した。

 また20年度からは、データを活用した施設園芸(データ駆動型施設園芸)の体制づくりと、実践・展開への支援を新たに展開している。

 新規ハウスばかりでなく、従来型の既存ハウスも対象とし、環境整備などの技術習得や軒高のかさ上げといった改修を支援することで、「データに基づく次世代施設園芸への転換」の促進を目指している。

 さらに、将来を見据えた取り組みとして「未来型の次世代施設園芸」の推進を打ち出している。

 生産性向上と規模拡大を加速させるには、人工知能(AI)やロボット技術などの「革新的な開発技術を取り入れた新たなシステム」を構築する必要があるとし、生育状態の「見える化」による収穫予測や、収量・品質の高位平準化、自動収穫などの大幅な省力化、作業効率のデータ化(効率的な労務管理体制の確立)などに力を入れていく方向にある。

(KyodoWeekly・政経週報 2020年8月10日号掲載)

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(農林水産省資料)

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