強化できるの?食料安保問題 小視曽四郎 農政ジャーナリスト
2020.08.10
(グラフ:農林水産省HPより、8月5日)
政府は、コロナ禍で食料への危機意識が国民に高まっているとして食料安全保障(食料安保)の強化にかじを切るという。
しかし、今年は「令和の不平等条約」ともいわれる日米貿易協定が発効、国内の農産物市場を大幅に開放し、日本農業を一層追いつめる決断をしたばかり。
そのような状況の中、政府が食料安保の強化に本気で取り組むことはないだろう。食料自給率の向上が食料安保の強化には前程になるはずだが、政府の検討内容に、そのような項目が見当たらないからだ。
安倍晋三首相は6月末の会合で「食料の安定供給は政府が果たすべき最も重要な責務。国内の生産基盤を強化し食料自給率や自給力の向上が必要」と述べた。
だが、約8年前の首相就任以来、食料自給率引き上げに向け、具体的な方策や予算措置や指示を官僚に下した、と聞いたことはない。
それどころか、総選挙の際ですら、主要政党として唯一、具体的な目標を掲げず、2017年には骨太方針から「食料安全保障」というキーワードを削除した経緯もある。首相に就任以降、自給率を2ポイントも低下させ史上最低を記録している。
自給率の数値化を始めた1960年代半ばの78%(カロリーベース)以来、日本人の食生活や産業構造の変化、相次ぐ農産物市場の開放などで自給率は一貫して下がり続けた(大冷害時を除く)。
高度成長やこれに伴う農業労働者の都市への流出、農地の宅地化や荒廃など複雑な理由があるが、自給率の1ポイント引き上げがいかに至難かがわかる。
本気で1ポイントでも引きあげるなら、政府に一切忖度しない専門家、消費者ら関係者が集まり、これまでの反省と展望を話し合い、政府はだまって財政支援をすることだ。
当然国民の理解や応援が必要だろう。だが、仮にそんな検討が進んだとしても立ちふさがる障害はいくつもある。
トランプ米大統領の側近だったボルトン元大統領補佐官が出版した回顧録にもヒントがある。
この著書によると、安倍氏にイランとの仲介を頼んだトランプ氏が、予想通りの失敗を踏まえ「失敗に罪悪感を覚える必要はない」としつつ、それより「日本が米国の農産物をより多く購入する方がはるかに重要だ。米国は日本を防衛しており、貿易で多くのお金を失っている」と述べたという。
トランプ氏は安倍氏の外交問題での〝負い目〟を背景に、日米貿易交渉での譲歩を暗に求めていたという。これに安倍氏は「何をすべきか、わかっている」と応えたとし、これがその後の「隷従協定」につながったかどうかは、安倍氏本人にただす必要がある。食料自給率の引き上げには、とかく邪魔が入る。
(Kyodo Weekly・政経週報 2020年7月27日号掲載)
農林水産省は8月5日、2019年度のカロリーベースの食料自給率は38%となり、前年度より1ポイント上昇したと発表した。前年度を上回ったのは08年度以来11年ぶり。(グラフ)
サンマやサバなどの魚介類の不漁が押し下げ要因になったが、小麦の生産量拡大が上昇に寄与した。過去最低だった前年度からわずかに改善したものの、依然として低い水準にとどまっている。(共同通信アグリラボ)
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