夏にこそ発酵食品を 山下弘太郎 キッコーマン国際食文化研究センター
2020.08.03
(写真:幻想的なこうじ菌の群生=顕微鏡で撮影)
今年の梅雨はいつもと違う苦労をしました。
新型コロナウイルス感染予防対策で、室内の換気をよくするために定期的に窓開けをしなければいけない、その一方で熱中症にならないためにエアコンは使いたい。悩まれた方も多いのではないでしょうか。
毎年のことながらこの時期は湿気と格闘する日々です。湿気は「ジメジメ」と言い表されるように不快感につながるものですが、それだけではなくカビの生育を促すことも厄介です。
この季節、食品にとってカビは大問題です。
しょうゆを、しょうゆ差しなどに移して卓上に置いていたら、白いカビのようなものが浮いていた、という経験はありませんか。実はこれ、産膜酵母といって、空気中に浮遊している菌の一種なのです。
これがしょうゆの液面に付着、繁殖して白い膜のように見えるのです。人体には無害ですが、しょうゆの風味に影響しますので、特に気温、湿度の高い時期は注意が必要となります。
しかし、このようなカビや菌は一概に悪いものとは決めつけられません。
日本の食文化はカビや菌と共存し、それを活用さえしてきたのです。もうお分かりでしょう。発酵食品です。
発酵に使われている菌は、しょうゆやみそ、日本酒に使われるこうじ菌や、酢酸菌、納豆菌などそのバリエーションも豊かです。中でもこうじ菌は、2006年に「国菌」として認められました。
しょうゆづくりにはこうじ菌の他に乳酸菌と酵母が関与しています。
こうじ菌のつくり出す酵素が原料を分解し、乳酸菌が主に味のバランスを整える乳酸発酵を、酵母が主に香りを整えるアルコール発酵をおこない、あのしょうゆ独特の色、味、香りをつくり出すのです。
このように複雑かつ絶妙に連携した、菌の働きによってつくられている食品は、世界的にも類をみないといっても過言ではないでしょう。しかも使われている菌の安全性は長きにわたる研究によって証明されているのです。
元々は、食品を長期保存するために塩漬けにしたことが長い歴史の中で、発酵食品へと発展しました。
ハムやベーコン、アンチョビーや塩辛、漬物、そして日本でしょうゆやみその文化が花開きました。最初は自然現象だった発酵を、経験を積み重ねる中で、コントロールできるようになったのです。
そこには好奇心と探求心と何よりも食べること、つまり〝生〟への強い執念があったと想像してしまいます。
私たちも、このように歴史の中で育まれたしょうゆをはじめとする発酵食品をうまく活用し、高温多湿な日本の夏をおいしく、健康的に過ごしたいものです。
(KyodoWeekly・政経週報 2020年7月20日号掲載)
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