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商業用コメ輸出の高成長に期待  田中宏和 矢野経済研究所フードサイエンスユニット上級研究員

2020.07.13

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商業用コメ輸出の高成長に期待  田中宏和 矢野経済研究所フードサイエンスユニット上級研究員の写真

 (写真はイメージ)

 新型コロナウイルス感染拡大の影響から各国での飲食店の営業停止も広がって、日本食材の輸出の先行きに不透明感が出ている。一方で日本のコメの品質や味に対する海外での評価は高さは変わらず、消費マインドが回復して輸送状況や貿易手続きが正常化すれば、商業用の輸出を中心とするコメビジネスの成長は続きそうだ。

 本稿で「コメビジネス」とは、日本企業が主体となりコメの品種開発から生産・加工・流通・販売の一連のプロセスに広く関わるビジネス(日本米の輸出と海外生産を含む)と、アミノ酸の一種である「GABA(ギャバ)」や食物繊維を多く含む機能米の開発・加工関連ビジネスを指す。

 農林水産省の食料需給表によると、コメの国内消費量はほぼ一貫して減少しており、2018年度は53.8㌔(概算値、1人1年当たり)と50年前の半分以下にまで落ち込んでいる。高齢化の進行で1人当たりの消費量が減少していることに加え、食の欧米化でパンや麺類といった小麦由来の食品の需要が拡大していることが背景にある。

 少子高齢化が進み、食の多様化も進む日本でコメの消費量を拡大させることは容易ではない中、海外に目を向けて、新しい顧客を獲得する動きが活発化している。昨今の消費者ニーズを反映してコメの高付加価値化も進んでおり、食味や機能を向上させたコメが続々と誕生している。

 日本の人口は2008年をピークに減少に転じたが、世界人口は増加を続けており、一部の国や地域では食糧難が深刻化している。当然のことながら、コメを含む穀物の需要は増大している。ただし、世界最大のコメ生産国である中国やインド、日本人にもなじみのあるタイやベトナムで主に生産されているのは長粒種のインディカ米であり、短粒種のジャポニカ米の生産・消費量は少ない。

 一方、無形文化遺産にもなった「和食」は、健康志向の高まりから世界的なブームとなっている。農水省の推計によると、世界各国の日本食レストランは、2019年で約15万6000店となり、2年間で約1.3倍に拡大した。特に北米とアジアに集中している。人気メニューのひとつである寿司をはじめ、日本食には水分が多く粘り気のあるジャポニカ米が不可欠であり、品質の高さや食味の良さから日本米の需要が高まっている。

 日本食レストラン向けなど、商業用のコメの輸出実績は18年で1万3794トン、金額ベースでは37億5600万円だった。国内生産量に占める割合は1%にも満たないが、13年以降5年間の年平均成長率(数量ベース)は35.9%に及ぶ。

 輸出相手国については、08年までは数量・金額ともに台湾が首位だったが、09年からは香港がトップとなり、10年にはシンガポールが2位に浮上した。18年は上位2カ国のシェアは高いものの、米国が躍進するなど、新たな市場の開拓が進んでいる。

 国内消費量の減少は続いているが、コロナ禍以前に日本を訪れた外国人観光客が日本通になったり、21年に東京五輪・パラリンピック開催されたりすることも追い風にして、コメビジネス市場は海外で拡大を続ける見通しである。

(KyodoWeekly・政経週報 2020年6月29日号掲載)

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