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防災食、おいしさも重要  田中宏和 矢野経済研究所フードサイエンスユニット上級研究員

2020.06.15

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防災食、おいしさも重要  田中宏和 矢野経済研究所フードサイエンスユニット上級研究員の写真

 日本列島は2011年の東日本大震災、17年の九州北部豪雨など、地震や台風、豪雨、豪雪と未曾有の災害に見舞われている。

 20年3月、世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を発表した直後には、食料不足を懸念した一般消費者による買い占めが発生した。

 国内の行政機関は災害対策基本法に基づき、食料を備蓄している。東京都の備蓄は都、区、市町村ごとに行われ、計1500万食を超える。

 一方、民間企業は、13年4月施行の東京都帰宅困難者対策条例に基づき、災害時の対応マニュアルを作成している。従業員への食料提供に支障を来たさないよう、数日分を備蓄することになっている。

 災害時の食品といえば乾パンや缶詰、パックご飯、ミネラルウオーターが定番だった。しかし最近では、総菜やデザート、栄養補助食品のように、おいしさや栄養性を重視した食品が出回るなど多様化している。普段購入している商品でも、災害用の食品に位置付けられるようになってきた。

 こうした背景には、内閣府が提唱する「ローリングストック」が食品・流通業界にも浸透してきたことがある。

 消費(賞味)期限まで待って買い替えるのではなく、普段の食事で消費しながら使用した分だけ補充し、食べながら買い足す方法で、これを日常化することにより非常時に備えるという考え方である。

 企業や自治体はローリングストックすることができないため、3年以上日持ちのするものが対象となるが、長期保存タイプでも総菜やデザートなど、バラエティー豊かな商品がそろってきている。

 近年はイスラム教にのっとるハラルやアレルギーに対応する食品のニーズが高まりつつある。ただ、メーカーが対応商品を作っても、混乱する災害現場で仕分けて提供するのが難しいため、誰が食べても問題の無い品質のものを一般食として商品化する動きがみられる。

 食物アレルギー患者の人口比率は2%程度といわれるように、通常の食事に比べ、まとまった需要を見込みづらいことは課題の一つである。材料が限られ、おいしさを損ねる点を課題とみる企業もある。

 20年1~2月に、矢野経済研究所が全国の自治体、大手企業、病院・施設を対象に実施した需要調査によると、93.3%の自治体は防災食品対策を実施しているという。大手企業は80.0%、病院・施設では54.5%だった。

 防災食品の採用基準については、保存期間、手ごろな価格、おいしさ、保管しやすさが上位となり、賞味期限や価格はもとより、おいしさも重要な採用ポイントであることが分かった。

 19年10月、食品ロス削減推進法が施行されるなど、食品ロスを減らす取り組みが拡大している。賞味期限を迎えた防災食の大量廃棄を避けるためにも、消費を促進する、おいしさの向上が求められている。

(KyodoWeekly・政経週報 2020年6月15日号掲載)

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