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コロナ禍で培養肉に注目  廣瀬愛 矢野経済研究所フードサイエンスユニット研究員

2020.05.18

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コロナ禍で培養肉に注目  廣瀬愛 矢野経済研究所フードサイエンスユニット研究員の写真

 国連の世界人口推計(中位予測)によれば、地球上の人口は2019年の約77億人から30年には約85億人へ増加し、50年には約97億人、2100年には約109億人と急激に増加する見通しである。

 また、サハラ以南アフリカの人口は、2050年までに19年の約13億2000万人から約25億2800万人へと倍増すると予測されている。

 食料需要量の増大に伴ってタンパク質の需要も増加し、現在の食肉供給量の延長では、十分にタンパク質を供給することが困難になると考えられている。

 この問題はタンパク質危機(プロテインクライシス)と呼ばれ、早ければ2025年ごろから顕在化していくと予測されている。そこで新しいタンパク源として、豆類や野菜を原料とする植物由来の肉や、動物細胞を培養して製造する培養肉が注目されている。(写真はイメージ)

 植物由来肉は豆類や野菜などの原材料からタンパク質を抽出し、熱を加えたり圧力を加えたりして、肉のような食感に加工した食品である。 日本国内では大豆ミートなど、大豆を原料とした製品が多い。賞味期限が1年程度と肉と比較して長期保存が可能であることから、災害時向けのストックにも適している。

 新型コロナウイルス感染症の影響で、スーパーなどの小売店ではカップ麺や袋麺の需要が増加し一時は品薄となったが、大豆ミートも日持ちがすることから注目を集めている。消費者の認知度の高まりから、需要増加は続くとみられる。

 一方、培養肉はウシやブタから採取した細胞を培養し、生成される肉を指す。 動物の細胞を採取し、37度程度の培養液で増やしていくと、筋肉の細胞はひも状につながっていき、培養液中でひき肉状の培養肉が完成する。繊維を筋になるように並べることで、ステーキ肉を作ることも可能である。

 畜産を行わずに食肉を生産することが可能な技術であるため、動物福祉、地球環境、衛生面などのメリットが挙げられている。現在は研究開発段階であるが、今後の展開が期待されている。

 2013年、オランダのモサミート社が発表した世界初の「培養肉ハンバーガー」は1個で約3000万円と非常に高額であった。その後、研究改良によりコストが下がり、数年後には畜肉のハンバーガーに近い1300円程度で提供可能になるともいわれている。

 日本では今年1月に企業や研究機関などが参加する「細胞農業研究会」が発足し、産業化の推進に向けルールメーキングの取り組みが始まった。

 培養肉では日本の持つ再生医療の技術や、知見を生かす取り組みに期待が寄せられている。

(KyodoWeekly・政経週報 2020年5月18日号掲載)

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