急成長する代替肉 畑中三応子 食文化研究家
2020.03.23
ここ数年、アメリカで「ミート・アナログ」が注目を集めている。食肉代替品のことで、ミート・オルタナティブ、フェイク・ミートなど、いろいろな呼び名がある。動物の細胞から培養する人工肉の研究も進んでいるが、急成長しているのは植物性原料100%の代替肉だ。(写真は豆乳でそっくりに作った目玉焼きをのせた大豆ミートのハンバーグ。最近、大豆ミートを扱うスーパーが増えている)
2009年に設立した代替肉専門のビヨンド・ミート社は、ビル・ゲイツ、レオナルド・デカプリオが出資していることでも知られる。昨年5月、米ナスダック市場に新規上場し、1カ月で株価が7倍に上がったことは日本でもニュースになった。大手食肉会社も、この分野に次々と参入している。
環境保護と動物福祉の観点から欧米で菜食主義者が増えているが、企業がメインターゲットにしているのは、健康志向から肉のかわりに食べてみようという人々だ。
代替肉は、コレステロールが低く、カロリーと脂肪分も本物の肉より少ない。ビヨンド・ミート社の主力商品、ビヨンドバーガーはエンドウ豆、緑豆、そら豆、玄米、植物油が主材料で、味も香りも牛肉に限りなく近く、コレステロールはゼロなのがウリだ。
ビヨンド・ミート社のライバル、インポッシブル・フーズ社は、大豆レグヘモグロビンという物質を使って肉らしいうま味と食感、色を再現し、アメリカのファストフード大手、バーガーキングが看板商品のワッパーに採用している。見た目はビヨンドバーガーの上をいくリアルさだ。
筆者は未体験だが、肉好きのアメリカ人が納得するのだから、どれも完成度が非常に高いのだろう。おいしくて、健康によく、しかも地球と動物にやさしい。〝一石三鳥〟の食べ物として代替肉の人気はうなぎ上りだ。
ここから筆者が連想したのが、「素食」と呼ばれる中国の精進料理である。野菜や穀物、キノコを駆使し、肉や魚とみまごう「もどき料理」に仕上げる。植物油をふんだんに使い、こってり濃厚な素食は、野菜の自然な味わいと色、形を生かす日本の精進料理とはまったくの別物だ。宗教的戒律で野菜しか食べられなくても、動物性食品の味を追い求める執念を感じる。
日本の食品会社も開発に着手しているが、肉の消費量が増えたとはいえ、アメリカ人の半分しか食べず、豆腐や納豆など、植物性たんぱく質食品が豊富な国だから、アメリカ型の普及は難しい気がする。
そのなかで有望株なのは「大豆ミート」だ。形状は粒、スライス、ブロックなどがあり、粒で作るハンバーグ、ブロックで作るから揚げなどは、歯ごたえは肉そのもので、肉とはまた別のおいしさが楽しめる。低脂肪、低カロリーで高たんぱく、食物繊維が豊富と栄養価が高い。日用食品として、もっとも取り入れやすい代替肉である。
(KyodoWeekly・政経週報 2020年3月23日号掲載)
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