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「研究紹介」中国の食糧安保政策 農林水産政策研究所レビューNo.118(2024年3月22日)

2024.05.01

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 新型コロナの感染拡大による物流の制約、ロシアによるウクライナ侵攻、それらによってもたらされたデジタル化とインフレの加速、さらにガザ地区で現実に起きている食料危機は、各国の食料・農業政策に強い影響を及ぼしている。

 日本では食料・農業・農村基本法の改正案が衆議院本会議で可決され、審議は参議に移った。米国では、食料・農業政策を包括的に規定する時限立法の農業法(ファーム・ビル、正式名は農業改善法)が期限を迎え、新法の制定時期を迎えている。ロシアは、2020年1月に「食料安全保障ドクトリン」を公表し、中国では23年末に食糧安全保障法が成立した。

 農林水産政策研究所の百﨑賢之・国際領域上席主任研究官は、同研究所のレビュー(No.118=2024年322日)に掲載された「中国食糧安全保障法成立―習路線を徹底し国家安全を確保―」で同法を解説している。興味深いのは、国家食糧安全戦略として「自ら主導権を握り、国内に立脚し、生産能力を確保し、適度に輸入し、科学技術を支えとする」(2条)と規定し、輸入を容認していることだ。

 百﨑研究官は、「食用食糧の絶対的安全保障」が同条に明示されていると指摘し、コメと小麦は完全自給を堅持する一方、中国の国民の食が量的に充足され、食の多様性や質の充実への対応が必要になっていると解説する。飼料用穀物や搾油用大豆などは「適度に輸入」するということだ。

 こうした方針は、習近平国家主席・中国共産党総書記が打ち出した「大食物観」を反映しているという。同法には「食糧の国際貿易の機能を発揮させる」(4条)という表現もあり、百﨑研究官は、大豆などの国際市場で中国が「大きなインパクトを及ぼす状況も変わらず続いていく」と見通している。

 同法は全11章で構成され、そのうちの1章(第8章)を「食糧節約」に充て、食糧生産、備蓄、流通、加工、消費の各段階で食糧の損失損耗を減少させる方策を示しており、フードロスやフードウエイストの削減を重視している点も興味深い。