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「研究紹介」ロシアの食料安保政策 農林水産政策研究所レビューNo.117(2024年1月31日)

2024.03.20

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「研究紹介」ロシアの食料安保政策 農林水産政策研究所レビューNo.117(2024年1月31日)の写真

 2年前のロシアによるウクライナへの侵攻以降、連日の報道は戦況が中心で、両国の内政に関する情報は著しく不足している。しかもその内容は、一方的にロシアに対して批判的だ。ウクライナの反転攻勢は成果を挙げられず劣勢が伝えられる中、ロシアの内政に関する客観的な情報が一段と重要な局面だ。

 農林水産政策研究所の後藤正憲・国際領域政策研究調査官は、同研究所のレビュー(No.117=2024年131)に掲載された「門戸を閉ざす穀物輸出大国ロシア」の中で、種子など生産に不可欠な資材についてロシアが輸入を制限して国産化を推進する動きを紹介している。

 ロシアは、侵攻前の20年1月に「食料安全保障ドクトリン」を公表し、食料安保を脅かす要因として、気候や環境の変化、伝染病、対外政策などを挙げた。特に種子は、高い収量を期待できる欧米の種苗会社への依存が強まり、自給率が低下している点を問題視してきた。

 プーチン政権は、21年末に新育種法を成立させ、非友好国からの農薬や種子の輸入を制限することで、トウモロコシ、ジャガイモ、ヒマワリなど主要農作物の種子の自給率を75%以上とする目標を掲げた。「遅かれ早かれ種子の輸入をゼロにする」(オクサナ・ルート副農業大臣)という。

 ロシアは侵攻前から、収量の低下という大きな犠牲を払ってでも種子を自給自足する覚悟を固めていた。後藤調査官は「今後ロシアの農業は大きな転換点を迎えそう」と結んでいる。ウクライナ侵攻の長期化が避けられないことを強く示唆する重要な研究だ